沖縄はヒアリ対策先進県 沖縄型「ヒアリ監視網」に国も注目 鍵は「県民の目」


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県内への侵入が危惧されるヒアリ(沖縄科学技術大学院大学OKEON美ら森プロジェクト提供)

 琉球大学、京都大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、国立環境研究所の4研究機関が強毒アリ「ヒアリ」の防除対策で協働することになった。実は、沖縄は国内での発見例がない段階から外来種対策事業の一環としてヒアリ対策を始めていた先進県で、まだ侵入を許していない。国は沖縄が構築したヒアリ監視網に着目し、沖縄の地で国内の防除モデルの確立を目指す考えだ。国を挙げたプロジェクトに関わる研究者は最先端の技術や知の集積だけでなく「県民の目」がプロジェクトの鍵を握ると強調する。

脅威

 ヒアリが持つ毒は強く、人によっては刺されると重いアレルギー反応(アナフィラキシーショック)によって死に至る。日本では2017年に神戸港で初上陸が確認され、大きな話題となった。その後も国内での発見が相次いでおり、研究者は「県内への侵入は時間の問題」と、危機感を募らせている。

 ヒアリは強毒だけではなく、攻撃的な性質も特徴で、環境省は在来種を脅かす特定外来生物に指定している。ヒアリの侵略する力について、OISTの吉村正志農学博士は「ヒアリが侵入すると、ほかのアリはほぼいなくなり『ヒアリ1強』になる」と表現する。

 沖縄は国内約300種のアリのうち、150種弱が生息する。ひとたびヒアリが侵入すれば、日本の“アリ天国”は危機に陥ることになる。影響はアリだけにとどまらず、玉突き的にほかの生物にも広がり、修復不可能なほどに生態系が崩される恐れもある。豊かな自然が各種産業を下支えしている沖縄にとって、ヒアリはまさに脅威だ。

 ヒアリはコンテナに乗って海外から侵入するケースが多い。国内では港などので水際対策が進んでいるものの、高度に発達した物流網を掌握し、荷物の全てを検査するのは非現実的だ。一度定着してしまうと根絶する方法はないため、研究者は侵入を想定しつつ、定着前の早い段階で根絶する「早期発見と早期根絶」が必要な技術だと強調する。

OISTの敷地内で捕獲したアリの種類を調べる琉球大学の辻和希教授(右)とOISTの吉村正志博士=14日、恩納村

失敗

 隣の台湾は03年にヒアリの侵入を許した。数が少なかった南部では駆除に成功したが、すでに巣を作るまで定着していた北部では今も被害が続いている。琉球大学農学部の辻和希教授は台湾北部でヒアリが広がった原因を「発見が遅れたこと」と分析。被害を食い止めるには早期発見が必須だと指摘する。

 沖縄は国内でヒアリが確認される以前から行政と研究機関が連携し、モニタリング用のトラップを県内74カ所に設置。主要な港湾での目視調査や港で巣になりそうな隙間を埋める工事も行っている。

 研究者や港湾関係者には講習会などを通してヒアリの危険性は定着しつつあるが、内陸部で発見される事例もあり、監視網はまだ隙間がある。広報や啓発にも取り組む予定で、OISTの吉村博士は「理想は一般の市民が関心を持ち、ヒアリ発見を知らせる役割を担うこと。研究者や行政だけでなく、140万人が協力すれば、早期発見の力になる」と話す。プロジェクトの鍵は県民が握っている。
 (稲福政俊)