【記者解説】与党からも異論 宮古市民提訴撤回 市長、直前に議論回避


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 宮古島市が不法投棄ごみ撤去事業の住民訴訟を巡って原告市民6人を提訴する議案の撤回を決めたのは、与党市議の合意が得られなかったからだ。提訴に踏み切る明確な根拠を与党市議に対しても示せず、与党内からも「慎重になるべきだ」との意見が出ていた。下地敏彦市長は今月11日に総務財政委員会で採決が見送られた際、「取り下げる考えはない」としていたが、審議の直前になって議案を取り下げる方針を決め、議論を避けた格好だ。

 この議案は、市長支持の与党が圧倒的多数の議会においても、与党市議の間で“悩みの種”となっていた。議案の提案・審議を経てからも、「さすがにこの議案を通したら恥ずかしい」「提訴は市長が個人ですべきではないか」などの声が噴出。議案を通した場合、批判が市議会に向くことを懸念する声が複数の与党議員から上がっていた。

 また、市民を提訴する議案を議会に提出した時点で「『下地市長に反対意見を持つ市民らを萎縮させる』という目的を遂げたのではないか」との見解を示した与党市議や、「今回の議案は慎重にやってほしい」と直接支持者に言われたという与党市議もいた。

 そうした中、議会は委員会採決の先送りにしたが議案通過について与党内でも意見がまとまらなかったため、今回は議案の撤回に踏み切ったとみられる。

 一方、下地市長は「(提訴を)やめるわけではない」として、提訴理由を整えた上で議案を再提案する可能性も示している。強力なけん引力で市政を運営する下地市長が示した提訴の方針を市当局内で慎重に議論したかは疑問が残る。市民提訴が及ぼす宮古島市民全体への影響も考慮し、歯止めをかけるような機能が行政に欠如しているなら、今後も市民を標的にした訴訟が別の形で提起される可能性は拭えない。(真栄城潤一)