貧困のない未来へ 何ができる?【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】1


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 この先もずっと、安心して暮らし続けられる世界を目指して各国が取り組むSDGs(エスディージーズ=持続可能な開発目標)。新企画「SDGsって? 知ろう話そう世界の未来」は、SDGsが目指す17のゴールを一つずつ確認しながら、沖縄の課題や沖縄に住む私たちにできることを考える。

 第1回のテーマは目標1の「貧困をなくそう」。具体的には「世界中の、あらゆる形の貧困を終わらせる」ことを目指す。

 世界には、生きるための食料すら手に入らない人たちがまだたくさんいる。貧困は単にお金がないだけでなく、教育や医療を受けられない、仕事がない、自分の意見が言えないなど、その人が持っている力を十分に生かせないことも含まれる。

 沖縄は、子どもの貧困率が29.9%(2015年度)で全国の2倍近い。貧困が原因で子どもたちの将来が狭められることがないよう、県内でも多くの取り組みが進められている。

困難抱える子と向き合う

上谷みち代さん 喜企画代表

 県内でフランス料理店を営み25年。合同会社喜(よし)企画代表の上谷みち代さんは、店で働く人と向き合う中で、幼少時から理不尽で厳しい環境で過ごしてきた人たちの現実に直面した。

 読み書きなど基礎的な学力が身に付いていない人、働いて得た給与が家族や親族に渡り、生活を改善できない人。たくさんの問題を抱え、他と同じスタートラインにすら立てない人たちは、仕事でもつまずきやすく、貧困の連鎖から抜け出すのが難しいと感じた。

 そうして分断されると政治も社会の問題も「物を言えるのは金持ちだけで、自分たちには関係ないとやさぐれてしまう。みんなが意見を言えてこそ、平和で明るい未来があるのに」。

上谷みち代さん(右から2人目)、夫の喜美夫さん(右端)らと出会い、夢を描きながら働く西里流彗さん(左端)、大城絢美さん=浦添市伊祖の「ラ・ミロワール」

 格差をなくしたいという思いと「子どもの未来は無限。わくわくするものを見つけられれば、目標を持ち、学びたくなる」との信念を胸に、料理店経営の傍ら、口コミで集まってくる子どもたちに勉強を教えたり、帰る家がない子を泊めたり、その子が好きなことで一緒に遊んだり、働く場を提供したり。子どもたちを受け入れ、全力で今を一緒に楽しむ。

 投げやりだった子どもたちの表情が変わり「世界を変えられるかも、なんて言うようになった」と笑う。生活保護を受ける家庭に育ち、痩せて生気のない目で「生きてる意味ないし」と口にする16歳だったという西里流彗(りゅうすい)さん(23)もその1人だ。上谷さんたちと過ごす中で笑顔と意欲を取り戻し、今は店で働きながら大学で学ぶ。

 「自分のような子どもはたくさんいる。自分がやってもらったように、子どもたちを明るい未来に導けたら」。明るくまっすぐな瞳で夢を語った。

(黒田華)


子どもの居場所に学生派遣

大学コンソーシアム沖縄

 県内全ての大学と短大、高専が加盟する「大学コンソーシアム沖縄」は2016年に「子どもの居場所学生ボランティアセンター」を設置し、県内各地の居場所に学生の派遣を続けている。大人ではない「お兄さん、お姉さん」が子どもに与える安心感は大きく、需要は高まっている。派遣する学生は月100人を超え、県内各地に点在する居場所の人的支援組織として存在感を増している。

 沖縄市の「夢空間たんぽぽ」は学生派遣を活用する居場所の一つ。地域の子を誰でも受け入れ、子どもたちは実家にいるかのように自由に遊び、学ぶ。琉球大学の東恩納拓人さん(25)は「初めは『子どもの貧困』解消に役立ちたいと気構えていたが、今は子どもにとって安心安全な場所を提供し、自分自身がロールモデル(手本)になれたらいいと考えている」と、自然体で子どもたちに溶け込んでいる。

居場所に集まった子どもたちとゲームで遊ぶ東恩納拓人さん=沖縄市泡瀬の「夢空間たんぽぽ」

 学生には派遣時間に応じて謝金が支払われる。学費や生活費をアルバイトで稼いでいる学生でも活動できるようにする仕組みだ。ただ、センターの運営費は国の一括交付金でまかなえるものの、学生に支払う謝金は県内企業の寄付金が原資。学生派遣が軌道に乗るにつれ、謝金の確保が課題に挙がる。

 センター長の本村真琉大教授は「学生が地域の居場所に参加することで、地域への愛着も育っている。学生にとっても子どもにとっても意味のある活動なので、継続できる仕組みづくりが重要になる」と話した。

(稲福政俊)


経済的困窮が孤立を生む

 県が2015~17年度に実施した調査によると、高校生以下の子を持つ保護者の地域行事への参加率は、困窮世帯の方が非困窮世帯より低かった。経済的困窮と社会的な孤立が相関関係にあることがうかがえる。

 貧困の概念には最低限の衣食住を満たせない「絶対的貧困」と、属している社会の“通常”の生活レベルに達していない「相対的貧困」の2種類があり、調査の「困窮」は相対的貧困を指している。衣食住を満たしていたとしても、子どもの体験や教育の機会が奪われ、貧困の連鎖に陥る危険性がある。

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること

 気候変動、貧困に不平等。「このままでは地球が危ない」という危機感から、世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。世界中が2030年の目標達成へ取り組んでいく。

 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。他者を思いやり、環境を大切にする取り組みだ。たくさんある課題を「貧困」「教育」「安全な水」など17に整理し、それぞれ目標を立てている。

 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを無視したり犠牲にしたりすることなく、どの国・地域の人も、子どももお年寄りも、どんな性の人も、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。

 やるのは新しいことだけではない。例えば、スーパーのレジ袋を断ること。話し合って地域のことを決めること。これまでも大切にしてきたことがたくさんある。視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。