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「自分の使命」児童笑顔に 被災教員、避難所で授業


「自分の使命」児童笑顔に 被災教員、避難所で授業 能登半島地震後に避難所となった「平和こども園」で、ペットボトルに開けた穴から流れる水で手を洗う和田洸君(右から2人目)ら=9日、石川県穴水町
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 能登半島地震後に避難所となった石川県穴水町の認定こども園で、被災し身を寄せた教員が自主的に授業に取り組んでいる。生活リズムを崩さぬよう時間割を考え、断水下での節水の知恵を伝える授業も。多くの学校で再開のめどが立たない中、家族と避難を続ける子どもたちは笑顔を取り戻しつつある。
 キーンコーンカーンコーン。9日午後。スマートフォンからチャイムが流れ、「平和こども園」の一室で「生活」の授業が始まった。
 この日はペットボトルにきりで穴を開け「蛇口」作りに挑戦。特別支援学校の教員鳥井祥代さん(47)が児童3人に優しく語りかけた。「おうちはぐちゃぐちゃですね。電気は来ましたが、水はしばらく来ません。困ることはなんですか?」「手洗い!」「トイレ!」。3人が元気よく答える。完成させ、穴から流れた一筋の水は、手洗いに使った。小学2年の和田洸君(8)は「1週間ぶりで気持ち良かったし、ちょっとうれしかった」と笑顔を見せた。
 断水したこども園は日用品の備蓄があり、地震後も通信環境が保たれていたのは良かったが、鳥井さんが避難した当初、時間を持て余した子どもたちはゲームばかり。親は家の片付けや安否確認に追われ、面倒を見る余裕はなさそうだった。
 鳥井さんがボランティアで始めた授業は国語、算数、体育と幅広い。
 元日の激震で穴水町の自宅では冷蔵庫が倒れ、多くの家財が散乱した。家族とこども園に移ったのは2日夜。この日が誕生日で8歳になった娘は「なんでこんな目に…」と涙をこぼした。
 授業は4日から始めた。5日の図工で、他の子どもたちが色とりどりの紙やブロックで作ったのは「バースデーケーキ」。受け取った鳥井さんの娘はうれしそうだった。
 こども園の避難者は11日時点で24人。日吉輝幸園長は「子どもがみんな元気で遊んでいて、ありがたい」と授業を歓迎する。鳥井さんは「自分も家の片付けに行きたい時はあるが、与えられた使命です」と控えめに笑った。