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中国は安定へ対話を 日米は有事回避に力注げ


中国は安定へ対話を 日米は有事回避に力注げ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 台湾総統選で中国が「独立派」と敵視する与党、民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統(64)が当選した。親中国路線の最大野党、国民党の侯友宜・新北市長(66)と第三勢力の野党第2党、台湾民衆党の柯文哲・前台北市長(64)を破った。
 頼氏は権威主義の中国との統一を拒否して台湾の自立と民主主義の防衛を主張し、侯氏と柯氏は対中関係改善を訴えた。中国は軍事、経済的な威嚇などの「選挙介入」で頼氏追い落としを図ったが、失敗した。
 今後、中国は頼政権に対して圧力を強める可能性がある。しかし台湾の有権者は「祖国統一は歴史的必然」(習近平国家主席)という呼びかけを、はっきり拒否した。中国は台湾の民意を尊重し、台湾海峡の平和と安定のため頼政権との対話を始めるべきだ。
 総統選と同時実施の立法委員(国会議員)選では国民党が第1党となり、民進党は過半数を維持できず、頼氏は難しい議会運営を強いられる。だが国民党も民衆党も、中台統一ではなく「現状維持」を主張している点は同じ。台湾住民の利益を第一として不毛な政治対立は避けてほしい。
 頼氏は蔡英文総統の2期8年に続いて総統を務める。1996年、民主化で総統直接選挙が始まって以来、同一政党が3期12年政権を担うのは初めて。住民の台湾人意識の高まりと自立志向を堅持する民進党の勢力の拡大ぶりを印象付けた。
 頼氏は「民主主義と権威主義の間で、われわれは民主主義を選んだ」と勝利を誇示する一方「台湾海峡の平和と安定」を維持するため、中国に対話を呼びかけた。
 中国は蔡総統を独立派と決め付けて対話を拒否し、台湾が外交関係を持つ国を奪って国交を結ぶなどの嫌がらせを続けてきた。中国は過去に独立色の強い発言をした頼氏を警戒。当選について「民進党は台湾の主流な民意を代表しているわけではない」と反発した。
 だが台湾有事が懸念される中で、不信の連鎖を招く中台断絶がこれ以上続くのは極めて危険だ。中国は民進党敵視策を抜本的に改め、対話の道を探る必要がある。
 バイデン米大統領は、近く元米政府高官らの超党派代表団を台湾に派遣し、頼政権を支持する姿勢を示す。一方で、バイデン氏は頼氏当選を受けて「私たちは独立を支持しない」と述べ、中国にも配慮を示した。
 上川陽子外相とブリンケン米国務長官は、それぞれ頼氏に祝意を表明。選挙前の外相会談では日米同盟の強化で一致し、台湾海峡の平和と安定の重要性を確認した。自民党の麻生太郎副総裁は台湾有事の際の日本の参戦を前提にした過激な発言を繰り返し、中国の反発を招いている。日米は中国を挑発するのではなく、台湾有事の回避を最重要の目標として中台の前向きな対話を促す外交に力を注ぐべきだ。
(共同通信編集委員 森保裕)