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「家から出ないように」 突然の徴兵、国外脱出の若者が殺到 混乱続くミャンマー 沖縄在住の女性「母国を支援してほしい」


「家から出ないように」 突然の徴兵、国外脱出の若者が殺到 混乱続くミャンマー 沖縄在住の女性「母国を支援してほしい」 「日本人にミャンマーへの支援を望むだけでなく、自分たちも日本社会のためできることをしたい」と語るザーザーさん(仮名)=18日、本島南部
この記事を書いた人 Avatar photo 岩切 美穂

 【南部】「外に出たら、捕まって国軍に入れられるかも。自宅から絶対出ないよう姉に伝えた」。本島南部で働くミャンマー出身の30代女性ザーザーさん(仮名)は、眉を寄せ不安を吐露した。ミャンマーでは2021年2月にクーデターを起こした国軍が今月10日、4月からの徴兵の開始を突如発表した。徴兵を逃れるため国外に脱出しようとする若者らが旅券発給事務所に殺到している。クーデターから3年がたつが、ミャンマーは今も混迷が続き、戦闘が長期化している。

 ザーザーさんは北部ザガイン地域出身。高度外国人材として22年に来県した。母国では、民主化を願いクーデターへの抗議デモに参加していた。

 2歳上の姉は中学校の教師だった。クーデター後、医療従事者や教師、公務員らが、職務をボイコットし国軍に抵抗する、非暴力の市民不服従運動(CDM)を全国的に展開し、姉も校長の呼びかけで参加した。「社会活動が停滞して国軍が追い詰められ、すぐに状況は改善すると思っていた」(ザーザーさん)が、国軍は抗議する国民を弾圧し続けた。

 CDMに参加した国民の情報は警察が握り、いつ捕まるかも分からない。姉は22年、タイへ出国しようとヤンゴンの旅券発給事務所を訪れた。手続きが済み、パスポートが支給される直前、係官が「この人、CDMでは?」と確認し始めた。

 危険を察知した姉は、提出した身分証などを即座に奪い返し、その場から走って逃げた。以来、外出もできず、ふさぎ込んだ生活を送っている。

ビザを求めミャンマー・ヤンゴンのタイ大使館前に並ぶ人たち=16日(共同)

 国軍による徴兵実施は、クーデター後に若者らが結成した民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」や少数民族の部隊との長引く戦闘で、戦力確保の必要性に迫られたものだ。

 発表後、「国軍に入って国民と戦うくらいなら、PDFで国軍と戦う」と若者のPDF入隊が急増。19日には、徴兵を逃れようと国外脱出を目指す数千人が旅券発給事務所に殺到し、圧迫により2人が死亡する事故が起きた。

 ザーザーさんによると、ザガインでは2月中旬、徴兵の対象年齢に達しない10代の若者らが市街地で国軍に連れ去られる事態も起きたという。「姉も対象外の年齢だが、安心できない。CDMに携わったので旅券の取得は絶望的。でも何とか国外脱出させたい」と支援者に相談している。

 沖縄社会で暮らすミャンマー人たちが、日本人に母国の混乱を話すことはない。しかし「知ってほしい」「支援してほしい」とは思っている。難民申請を容易に認めない日本政府に対し、願うことは一つ。「命を守るために逃げてきた人たちを受け入れてほしい」

 (岩切美穂)


<用語>国軍の徴兵制

 ミャンマー国軍は2010年に徴兵制の導入を決定したが、実施していなかった。兵役は原則2年。18~35歳の男性と18~27歳の女性が対象で、1300万人超が該当する。4月から実施予定で、第1陣は約5千人、年間で5万人程度が徴兵される見通し。