prime

台風6号、「被害を防ぐ」を取材の主眼に 生活情報に「付加価値」<取材ノート 新聞週間2023>3


台風6号、「被害を防ぐ」を取材の主眼に 生活情報に「付加価値」<取材ノート 新聞週間2023>3 コートサイドラウンジに設置されたテントで避難生活を送る人たち=8月4日、沖縄市の沖縄アリーナ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 第76回新聞週間が15日、始まった。記者は取材現場でさまざまな状況に直面しながら、どんな思いで記事を書いているのか。報道の在り方を日々模索しながら発信する記者の思いを紹介する。


 7月31日~8月7日、台風6号が沖縄地方に2度にわたり接近し、本島と周辺離島に甚大な被害をもたらした。台風取材は県民の安全や生活に直結する重要なテーマで、台風の進路、公共交通機関やライフラインへの影響、道路の封鎖など細かな情報が求められる。ネットによる災害情報の入手が浸透する中、県民が欲しい情報をいち早く届けるために取材現場の模索が続く。

 過去の台風取材では、被害の大きさを伝えるのに傾注し、暴風の中でも早く災害現場に行くことを優先する傾向があった。しかし近年は「被害を防ぐ」ことに主眼が移っている。今回、暴風警報が出ている間、記者もできる限り在宅で取材した。

 災害現場の確認も緊急時以外、暴風警報が解除するまで待つよう抑制した。被害状況や避難所設置などは、定期的に自治体と消防に電話で確認し、午前と午後に台風の進路などと合わせて琉球新報のニュースサイトを通じてネット配信した。

 ネット配信する記事は、分析ツールにより「今、どのニュースが読まれているか」を計測できる。今回、最も読まれたのは「スーパー各社の営業・休業状況」の記事だった。緊急給水や電源車配備を伝えた記事はSNS上で拡散された。読者がより暮らしに密着した情報を求めていると判断し、デジタル報道の現場では、スーパーや電力会社の情報を速やかに配信することを意識した。同時に停電時の熱中症予防など被害を防ぐ情報も紙面、ネットの両方で伝えた。

 今回、大型で非常に強い台風の2度にわたる接近により暴風が長く続き、停電が長時間に及んだ。離島では定期船の運休で食料品が不足。停電に加えて電話も不通となり、本島から島の状況が把握できない状況が続いた。そのような中で、携帯電話の充電を気にしながら取材に応じてくれた島民もいた。本紙も沖縄市の中部支社、記者の自宅などが停電した。記者は携帯電話やパソコンの利用を抑えながら記事入力に当たった。飲み水やシャワー、トイレも制限された中で取材に回る記者もいた。大規模災害時に難しさをあらためて感じた。

 今後も台風情報をネット発信する流れは強まる。ただ交通や停電などライフラインにまつわる一次情報は各社が公式サイトやSNS等で主体的に発信し、気象情報も専門サイトなどが多数存在する。「スピード」勝負だけでは新聞社が及ばない場合もある。災害時に沖縄の新聞社が発信する情報はどうあるべきか。迅速な生活情報に「付加価値」をどう付けるのか。知恵を絞る日々だ。

(仲井間郁江、岩崎みどり)
(おわり)