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被害防止「共通認識に」 窓口少なく、救済に限界 アウティング禁止条例増


被害防止「共通認識に」 窓口少なく、救済に限界 アウティング禁止条例増 アウティング禁止を条例で明記している自治体数(施行時期)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 性的指向や性自認を本人に無断で周囲に漏らすアウティングは性的少数者の4人に1人が経験しているとされるが、相談の場は少なく、救済手段も限られている。条例に禁止を明記した自治体では防止に向けた取り組みが進むものの、まだ一部。当事者は「社会全体でルールとして共通認識を」と訴える。(1面に関連)
 「次に来る新人は実はゲイだが、変な目で見ないように」。金融機関に勤めていた植田次郎さん(31)=仮名=は約6年前、地方支店に赴任。人事担当にだけゲイと伝えたが、後に、配属前の朝礼で支店長が勝手に公表していたことを知った。
 従業員は全員知らないふりをすると決めていたというが、陰では「誰に最初にカミングアウトするのか」を賭けていた。同僚だけではなく、取引先からも「彼女の有無」を執拗(しつよう)に聞かれ「ゲイだと知られているのではないか」と疑心暗鬼になり、泣きながら帰ったこともある。
 退職を決めた後。親しい同僚から、アウティングがあったことを打ち明けられた。弁護士らの助言で本社のコンプライアンス窓口に通報。勝手に公表した支店長は降格処分となった。植田さんは「よかれと思ってだったかもしれないが、周囲への不信感が募った」。「問題が起きてからでは遅く、防ぐための対策が必要だ」と話す。
 アウティングを巡り取り返しの付かない事態が起きたのは2015年。同級生にゲイであると暴露された一橋大法科大学院の学生が転落死した。地元の東京都国立市はアウティング禁止を初めて条例で明記した。その後同様の条例は、全国に徐々に広がってきた。
 これらの自治体では職員研修やガイドラインの作成のほか、市民や企業への啓発も実施。兵庫県明石市は性的少数者の当事者である専門職を公募で採用し施策を展開、啓発動画を作成した。同性カップルを公認するパートナーシップ制度を導入した自治体では、届け出た2人が外部に証明書を提示する場合を想定し、アウティングに関する注意書きをする配慮も。
 東京都豊島区の条例には、区民が人権侵害を受けた場合に苦情や救済を申し出ることができる仕組みがある。職場で被害を受けた男性が救済を申し立て、区のあっせんで会社側が謝罪し和解した。労災認定にもつながった。
 ただ増加傾向にあるとはいえ、条例制定は全国1788自治体のうち26にとどまり、多くの地域では施策も進んでいない。「人を追い詰め、命を落とすことにつながる問題であるとの認識が、まだ不十分だからではないか」と話すのは、宝塚大の日高庸晴教授(社会疫学)だ。
 日高教授が19年に当事者約1万人を対象にした意識調査では、4人に1人に当たる約25%がアウティングをされた経験があると答えた。本人が被害を認識している場合の回答のため、実際はさらに多いとみられる。
 被害を経験した植田さんは「安心して生活できるように、ルールとして認知されることが大切だ」と強調。性的指向や性自認を理由に差別や偏見、不利益を受けない社会にすることも重要だと考えている。