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性別変更「法改正に期待」 手術要件「違憲」 当事者心晴れ


性別変更「法改正に期待」 手術要件「違憲」 当事者心晴れ 手術を経て男性に性別変更したものの、現在は女性として暮らす児島寿紀さん=8月、名古屋市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 体を傷つけることなく、望む性で自分らしく生きる道が開かれた。性同一性障害の人が、性別を変更する際の生殖能力喪失要件を違憲と判断した25日の最高裁決定。戸籍を得る交換条件に、健康を差し出せと言われた気がした―。手術経験者が心身に負った傷は深い。手術なしでの性別変更を求め続けた当事者は「法改正され多様性が認められる社会に」と願った。 (1面に関連)
 「ついにこの時が来た」。名古屋市の児島寿紀さん(46)は長年抱えてきた心のもやが晴れる思いがした。
 「性別に強烈な違和感があり、望む性で生きたい一心だった」。女性から男性への手術を受けたのは20代の時。仕事を辞め、高額な費用を投じてまで健康な臓器を除去すべきか、悩みは尽きなかった。交換条件に自らの健康を差し出せと言われている気さえした。ただ男性として生きるには戸籍が必要だった。
 術後は男性ホルモンの影響で髪が抜け、肝臓の数値が悪化。多血症、頭痛と体調不良に見舞われ、医師からは「手術によりホルモンを生成できない体になっている。長生きできないだろう」と告げられた。影響は後になって実感させられた。
 15年ほど過ぎたころ、鏡に映る自分の姿が女性に見えた。女性として見られることが嫌でたまらなかったのに、気づくと違和感が消えていた。その後、専門医と相談して再び女性として生きることを選んだ。「戻った」のではなく、新たな性に生まれ変わったように感じる。大変な思いで得た男性としての戸籍と名前はそのまま。「影響は10年、20年先まで続く。過大なリスクを負わなくても、望む性で生きられる社会になってほしい」
 これから手術を受け女性への変更を望むのは、関東地方に住む戸籍が男性で性自認は女性のつむぎさん(31)=仮名。「男性の部分は完全に消し去って、女性として生きたい」。最高裁決定が出ても性別適合手術を受ける意思は変わらないという。
 幼少期から性別に違和感を持ち、大学卒業後は男性のまま就職。性自認を打ち明けた上司の対応に不信感を抱き、休職する経験も。「何でこんなに我慢して生きているんだろう」。3年ほど前、心のままに生きてみようと手術を決めた。
 戸籍が男性で性自認が女性の場合は逆のケースに比べ、公衆浴場やトイレの利用が多く取り沙汰される。つむぎさんは、職場では会社に指定されたトイレを使い、公共施設でも必ず「だれでもトイレ」を使用。銭湯には行かず、自分が決めたルールを大事にしている。
 「当事者が手術を受けるかどうか選択できること自体は大切」と考えるが、複雑な思いもある。
 「私たちは社会の『普通』から外れた存在のまま。過渡期に急激な変化が起きると、反発や攻撃の声が高まらないか」
手術を経て男性に性別変更したものの、現在は女性として暮らす児島寿紀さん=8月、名古屋市