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飲酒量、進む「二極化」 消費2割減、肝疾患死者は2倍 厚労省、健康影響の「指針」検討


飲酒量、進む「二極化」 消費2割減、肝疾患死者は2倍 厚労省、健康影響の「指針」検討 筑波大病院のアルコール低減外来で患者の話を聞く斉藤剛医師=10月、茨城県つくば市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 成人1人当たりの酒類消費量はこの20年で約2割減った一方、アルコール性肝疾患の死者は2倍近くに増加した。健康志向で酒を控える人、新型コロナウイルス禍のストレスなどで深酒する人と、飲酒量の「二極化」が進んだとの指摘がある。10~16日はアルコール関連問題啓発週間。病気やトラブルを避けるため、飲む際は年齢や体質に応じ体に影響の少ない量を心がける必要がある。
 「仕事もこなせていたつもりだったし、自分は病気ではないと思っていた」。茨城県の男性会社員(28)は3、4年前、職場の担当替えをきっかけに酒量が増えた。最初は毎日1、2本だった酎ハイの500ミリリットル缶が、気付けば10本に上る日もあったという。コロナ禍とも重なり週末は朝から晩まで飲み続けた。
 やがて手の震えが治まらず、会社も休みがちに。周囲からは、ろれつが回らない、朝から酒臭いと心配され、アルコール依存症の診断で治療。一時は酒量が減ったものの再び増え、今春に3カ月の入院治療を経てようやく断酒できた。「当時の自分の様子を同僚から聞くと、別人の話のように感じる。依存症になったことを後悔しており、今は少しも飲みたいとは思わない」。病院には現在も定期的に通っている。
 国税庁によると、2021年度の成人1人当たりの酒類消費量は74・3リットルで、01年度(95・4リットル)の8割未満。ノンアルコール飲料市場も拡大した。
 一方、厚生労働省の人口動態統計では、22年のアルコール性肝疾患の死者数は6296人と、02年(3327人)と比べ2倍近くに増加。コロナ禍前の19年(5480人)からは1割超増えた。
 15年の経済協力開発機構(OECD)の報告は「日本は飲酒量の多い2割の人が全アルコール消費量の7割近くを消費している」とし、酒量の著しい偏りを指摘した。筑波大病院(茨城県つくば市)のアルコール低減外来を担当する吉本尚・同大准教授は「コロナ禍の自粛で酒が減った人もいれば増えてしまった人もいる。より二極化が進んでいる印象だ」と語る。
 低減外来では断酒を急がず、酒量を減らすことから始め、通院のハードルを下げるようにしている。吉本准教授と外来を担う斉藤剛医師は「20~30代の若い患者も増えている」と話す。
 依存症患者らを支援するNPO法人アスク(東京)の今成知美代表は、コロナ禍では家飲みで酒量に歯止めがかからなくなったとして飲酒者本人だけでなく、家族からの相談も寄せられたとし「アルコールは、暴言や暴力、事故など周囲の人への影響が大きい」と説明する。
 本人以外も含めアルコールの怖さを知ること、依存症は病気だと理解し抱え込まず早期に支援機関につなぐことが重要という。
 厚労省は啓発週間に合わせ、ポスターを作るなどして飲酒リスクを周知。近く、年齢や体質に応じた健康影響、留意すべき飲み方をまとめた初の指針が検討会でまとまる予定で、担当者は「酒量だけでなく、飲料に含まれるアルコール量も意識し健康管理に取り組んでほしい」としている。
筑波大病院のアルコール低減外来で患者の話を聞く斉藤剛医師=10月、茨城県つくば市