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独り食事 涙あふれ 能登半島地震1カ月 食器、いす 「全てが家族に結び付く」 遺体 強く抱きしめた 土砂崩れで妻子犠牲 大間圭介さん


独り食事 涙あふれ 能登半島地震1カ月 食器、いす 「全てが家族に結び付く」 遺体 強く抱きしめた 土砂崩れで妻子犠牲 大間圭介さん 能登半島地震で犠牲になった家族への思いを話す大間圭介さん。食卓に置かれた左のフォトフレームは外出するときに一緒に持って出かけるという=1月26日、金沢市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 妻と子ども3人の遺影と骨つぼが並び、線香の香りが漂う。にぎやかだった食卓で、写真の4人に見守られながら、独り食事をする。静けさに涙があふれる。金沢市の大間圭介さん(42)は帰省先の石川県珠洲市で能登半島地震に遭い、土砂崩れで家族を失った。子どもが座っていたいす、手料理を盛った食器、おもちゃ…。「全てが家族に結び付く」。思い出が次々によみがえり、悲しみは増す。 (1面に関連)
 珠洲市仁江町にある妻はる香さん(38)の実家に、長女優香さん(11)、長男泰介君(9)、次男湊介ちゃん(3)と家族5人で帰省していた。はる香さんの兄夫婦と子ども、両親と祖父母の計12人で過ごす、いつもの年越しだった。
 「今年1年、家族みんなが無事、健康でありますように」。元日の午前、初詣に行き祈願した。
 夕方、リビングでボードゲームをしていた時、最初の地震があった。県警珠洲署の警備課長を務める圭介さんは「ごめんね。お父さん、仕事に行くね」と言い残し、外に出た。
 直後に大地震が襲った。家の瓦が落ち、立っていられない。目の前の山が崩れるのが見えた。死を覚悟しながら、迫り来る土砂から逃れるため、懸命に走った。
 砂ぼこりに覆われた。視界が開けると、家が土砂にのまれ、11人が巻き込まれていた。「助けてください」。必死に叫び、警察や消防に電話をかけ続けたが、つながることはなかった。近所の人たちの協力で、その日のうちに、はる香さんの兄とその子どもが救出され、命を取り留めた。
 自衛隊が捜索を始めた4日、はる香さんと優香さんが、5日には泰介君と湊介ちゃんが見つかった。面会したのは遺体安置所。「つらかったね」「怖かったね」「本当にごめんね」。一人一人に声をかけ、冷たくなった体をぎゅーっと抱きしめた。はる香さんの兄の妻、祖父母も亡くなり、両親の行方はいまだ分かっていない。
 妻や子どもたちが激震におびえ、土砂が押し寄せてくる瞬間の状況を考えずにはいられない。なぜ自分だけ助かったのか。「怖い思いをしているとき、ずっとそばにいてあげたかった」
 湊介ちゃんは、単身赴任していた圭介さんが金曜日に帰ってくるのを楽しみにし、車の音が聞こえると、うれしそうに家の中からのぞいていた。玄関で抱っこや「高い高い」をせがんだ。泰介君は家のいろいろな所に隠れ、優香さんは勉強を頑張る姿で迎えてくれた。
 はる香さんを知ったのは中学生の頃。妹と同じバスケットボールチームの選手だった。大人になって再会し、圭介さんからアプローチして結婚した。「定年になり、子どもも巣立ったら、ヨーロッパにでも2人で行こう」。そんな夢を思い描いていた。
 「結婚してくれてありがとう」「生まれてきてくれてありがとう」。悲しみとともに、「宝物だった」4人への感謝の気持ちを強くする。つらくてたまらないのに取材に応じたのは、愛する家族がこの世で生きた証しを、残してあげたいと思ったから。