今回の件は「不適切表現」の事例に当たる。実在する人々の評価や人格を具体的に貶(おとし)める表現になっているからだ。抗議活動をする人々の活動を困難にする圧迫的な影響も考えられることで、表現者(漫画家と出版社)の側が十分に注意すべきことだった。
当事者の名誉とデマの影響を回復する手だてとして、おわびと訂正が必要だ。講談社が開き直りをせずに事実経緯を認め、対応したことは評価できる。
漫画は日本が世界に誇る文化ジャンルになり、それに伴って表現者の社会的責任も重くなっている。特に弘兼憲史氏は著名な漫画家で社会的影響力がある。
新聞・出版には真実報道のルールを課す法令はないが、良識的な言論・表現活動を維持するために、自己を律する努力が問われる。表現の自由を守るためにも、社会活動をしている人の評価や人格を不当に貶める表現を避けるよう、過去の裁判所の判断を学ぶなど、努力することが求められる。
(憲法学、談)