<メディア時評・屋上裁判の行方>市民を代表するのは誰か 記者クラブ側の排除は問題

 いま官邸や国会前ではさまざまな抗議行動やデモが行われている。明日、11日は脱原発の大規模行動が行われる予定だ。それに比べると規模は小さいが、オスプレイ配備反対の抗議行動も米国大使館前も含め続いている。そうした市民活動を伝えるメディアとして、新聞やテレビといった既存のいわばメインストリーム・マスメディア以上に時として活躍しているのが、ネット系メディア群である。先の国会包囲行動の際も、カンパでヘリをチャーターして空撮を実施、音声での生中継を行った。しかし航空安全上の理由から、テレビ局が当たり前にやっている空からの映像生中継が、ネットメディアに許可されることは通常ない。そしてこうしたメディア間の「格差」は、地上においても起きている。

 その一つは、官邸前抗議活動の全体像を撮影するのに最も適したスポットといわれる、国会記者会館屋上からの撮影をめぐる「事件」だ。オルタナティブ・メディアとして主としてネット上で活動を展開している、アワー・プラネットTV(代表・白石草)が利用を求めたところ、所有者の衆議院と管理者の記者クラブがそろって拒否、これに対して訴訟を提起したというものである。国会記者会館は一般にはなじみがないが、ちょうど官邸・国会議事堂・議員会館とともに、交差点を囲むように建つ4階建ての建物で、沖縄を含む日本全国の新聞・放送各社が取材拠点として活用している。

記者会館の使用ルール
 過去経緯としては、1969年3月に衆議院事務総長から国会記者会(いわゆる記者クラブ)代表者あての文書「国会記者事務所の使用について」が発信されている。そこでは「条件を付して使用を承認します」として、施工主の建設省から引き渡され、それまで使用していた国会記者会館から退去することが記録に残っている。そして使用条件として、使用料は無料とすること、光熱費や維持修繕費は記者会が負担することなどが定められ、建物と構内の管理は記者会が行うという現行ルールもこの時に定められたことがわかる。その後40年以上にわたり、特定の報道機関が任意団体としての記者クラブを構成し、施設をいわば独占的に利用してきたわけである。
 第1に、報道機関に対する国からの便宜供与がどこまで、どういう場合に許されるかという問題がある。取材の自由を最大限発揮し、国家情報にアクセスするため、特別な法的保障を与える必要があるかという話だ。例えば、個人情報の収集について本人に断りなくこっそり集めることは、普通の企業では絶対許されないが、報道機関であれば通常の取材行為として認められている。あるいは、一般ならストーカーとして問題になるようなつきまといも、追跡取材として許されることになっている。これらは権力犯罪追及のための工夫の一つだ。判例上、法廷において取材源を守るために証言を拒否する行為が記者に認められているのも、同様に取材の自由を保障するための制度保障と説明されてきている。
 それと同じような意味合いで、裁判取材の記者に対しては、判決文が配布されたり優先的に傍聴を認める仕組みが、慣習上定着している。こうした特別扱いは、国会取材でも事件取材でも同じだ。報道目的で行われる取材行為に対し、公権力が自らの情報を開示もしくは情報アクセスの環境を整備することは、市民の知る権利に応えることそのものであって、少なくとも合理的な理由なく拒否することは、表現の自由の不当な制約に当たり許されない。

特別扱いの対象は
 そうすると、第2の問題が、その対象となる記者(あるいはメディア)とは誰かということだ。この特別扱いの対象こそが、通常、記者クラブと呼ばれる「特権」報道機関が組織する団体に所属する記者であって、それゆえにさまざまな取材局面において、記者クラブに属しているかどうかによって、行政側の対応が変わってくることがあるわけだ。
 確かに、市民の知る権利の実質的な充足のため、便宜上、特定の者を特別扱いすることはありうる。情報の発信源としての行政の立場からは、効率性(発表したことが広く国民に伝播される確率の高さ)、一定の信頼感(報道の正確性)や実効性(実際に報道するであろう予測可能性の高さ)が吟味されうるからだ。しかしその選択が、恣意的であったり、実質的に特定の機関を排除するために利用されたりするのであれば問題である。
 だからこそ、その対象の範囲は、記者の側が自主的に決めることが望ましく、現状であれば、既に存在する記者クラブがその判断主体になる場合も否定しえない。ただしその場合の判断基準は、正当な取材行為を行うものを可能な限り広く受け入れることが求められるのであって、既得権益の擁護のためや、競合他社を排斥するための行為は、競争法に抵触する可能性がある。
 そして何より、知る権利の拡大あるいは実効性の担保という目的から特別な権利が付与されている以上、その目的に反するような行為を自らが選択する余地がないことは明らかだ。
 それからすると、国会記者会館屋上の撮影スポットの利用制限も、その趣旨に基づいて考えられるべきである。したがって、管理者である衆議院は、報道目的の正当な取材行為に対しては拒否することに合理的理由がなく許されないのであって、立ち入りの制限は認められないことになるだろう。あわせて記者会側においては、物理的制約から無制約に利用を許可することができないことはあるにせよ、少なくとも所属メディアの取材が著しく不利益を受ける場合を除いては認められる必要があろう。
 市民の知る権利に寄与すると考えられるのであれば、むしろ積極的に対象の範囲を拡大することこそが、市民を代表して国になりかわり取材拠点を管理する者の責務であると考えられるからだ。それを恣意的あるいは明示的な理由なく排除する行為は、場合によっては憲法が保障する平等権や表現の自由に抵触する可能性がある。
(山田健太 専修大学教授・言論法)
(第2土曜掲載)