『琉球宮廷歌謡論―首里城の時空から』 「おもろ」やさしく解明


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『琉球宮廷歌謡論―首里城の時空から』末次智著 森話社・8200円

 「おもろ」というと、ゆいレールの駅名にもなっているくらいだから、沖縄の人々にとって、その意味も含めたなじみの言葉のように思われがちだが、必ずしもそうではないようだ。私自身、とりわけ若者から「おもろって何ね?唄ね?」と聞かれることがある。質問すること自体、少なからず「おもろ」に対する興味や関心を示しているのであろうが、では正確に説明するとなると、これが案外難しい。

なぜなら「おもろ」が唄であることは説明できても、具体的には「何時、どこで、誰が、何のために、どの様に」唄っていたのかを、しかもその発生から今日にいたるまでの歴史的変遷も含めて説明する必要があるからだ。
 それだけではなく「おもろ」が唄われる時、楽器は使用されたのか? 踊りも伴ったのか? 「おもろさうし」との関係や本土の唄との関係は?―ということも素朴な疑問になってくるだろうから、こうなると専門家でないと正確な説明は不可能ということになってしまう。
 本書は、専門書であるから、当然、綿密な分析と洞察によって論が展開されている。しかし、専門用語の使用は必要最小限にとどめ、文章表現にも工夫をこらし、専門家でなくとも理解しやすい内容になっているので、「おもろ」に対する疑問を平易に解き明かしてくれる。
 さて、「おもろ」は何時唄われたのか。神事・祭祀(さいし)だけでなく、平時にも唄われていた可能性を著者は指摘する。どこで唄われたのか。御嶽・首里城、首里城の場合、具体的な場所としての「庭(みや)」。本書を宮廷歌謡と題する理由が見えてくる。しかし、かつてはくだけた宴の場でも唄われたのではないかとも指摘する。誰が唄うのか。神女から男性歌唱隊への移行の経過とその理由。何のために唄われたのか。神女は王と霊的な交歓を交わしたが、男性歌唱隊の場合、祭祀を荘厳なものにするため、響かすように唄う。楽器は? 踊りは?等々、古琉球から近世へと「おもろ」が形式化していく経過も含め、さまざまな疑問を鋭くも平易かつ鮮明に解き明かしている。
 (知名定寛・神戸女子大学教授)
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 すえつぐ・さとし 1959年福岡県生まれ。琉球文学専攻。京都精華大学人文学部准教授。著書に「琉球の王権と神話―『おもろさうし』の研究」など。