痛快なシニア女性たちに拍手


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ベルリン国際映画祭の授賞式で最優秀女優賞のシルバーベアを手に喜ぶパウリナ・ガルシア(ロイター=共同)

今年のベルリン国際映画祭、『グロリア』など
 とにかく女に圧倒されました。2月に取材したベルリン国際映画祭のことです。最高賞の「金熊賞」を競うコンペティション部門は女性の主人公が目立ち、良くも悪くも中高年女性の強烈なオーラが席巻していました。

 ただでさえ、かのカトリーヌ・ドヌーブやジュリエット・ビノシュら大女優が居並ぶラインアップです。金熊賞もさることながら銀熊賞の最優秀女優賞の行方に興味をそそられてしまいますよね?
 そんな中、女の戦いを制したのはチリ映画『グロリア』でタイトルロールを演じたパウリナ・ガルシアでした。
 グロリアは離婚歴のある58歳。子どもも独立し、第二の人生を謳歌しようとシングルパーティーでパートナーを探す日々。ある日、ロドルフォという男性と恋に落ちますが、これが元妻と娘からたかられ続ける情けないことこの上ないダメ男。何せグロリアがロドルフォを見限るシーンは痛快で、場内に拍手が湧き起こったほどです。
 恋に破れて傷ついても、たくましく前に進む姿は私たち後進世代をも勇気づけます。
 劇中で惜しげもなく裸体をさらしたガルシアでしたが、授賞式でも背面が大きく開いた黒のドレスで登壇しました。少々背中のお肉が震えようとも気にかけない潔さ。若さにはない、年を重ねたからこそ醸し出される美がまばゆく、しびれました。日本にも老いを恥じない文化がもう少し必要では? と思うのですが、いかがでしょう。あ、これはアラフォー記者の負け惜しみではないですよ。
 一方、金熊賞のルーマニア映画『チャイルズ・ポーズ』で描かれた母親はあまりにもえげつない。
 彼女は溺愛する34歳の息子が起こした交通事故を、金に物言わせて解決を図ろうとします。事故で幼い息子を亡くした被害者の元へ謝罪に行き、涙ながらに言い放つせりふがこれです。「あなたにはもう1人、息子がいるじゃない。私にはあの子しかいないの」
 もう“ドン引き”です。ダメ息子からすれば、母親はうとましくも頼れる女なのかも知れません。しかし、はた目にはゆがんだ親子関係にしか見えず、還暦を迎えた彼女が自分の人生を生きている女性であったなら、ここまで息子に執着することはなかったのでは、と考えさせられます。
 日本で公開中の『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』もシニアがいかに生きるかを語る映画でした。ジュディ・デンチ演じるイブリンは、40年間依存してきた夫を亡くし途方に暮れますが、自宅を売ってインド行きの資金を作り、息子からの同居の申し入れも断ります。自らの手で第二の人生を始めるのです。
 いくつになろうとも、人生を切り開いていく元気なシニア女性を描いた映画が増えているように感じます。映画は社会を映す鏡ですから。おじさま方、もうちょっとがんばりましょうよ。(須永智美・共同通信文化部記者)
 (共同通信)
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須永智美のプロフィル
 すなが・ともみ かかあ天下の上州出身。大津支局と大阪社会部を経て、現在文化部で映画担当。好きなヒロインはナウシカです。
(共同通信)