『Dr.平川の沖縄・アジア麺喰い紀行』 沖縄そば店主は必読


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『Dr.平川の沖縄・アジア麺喰い紀行』平川宗隆著 楽園計画・1800円

 沖縄の食文化「沖縄そば」がどこから伝わり、戦前・戦後どのように普及していったのか? とても関心があった。
 本著には、沖縄そばのご当地そば20店、よもぎやバジルなどを麺に練り込む店、馬汁、牛汁、山羊、イカスミ汁など、具やスープに特徴がある店26店、さらに「冷やしそば」「つけめん」といった進化した変わりメニュー8店、焼そば4店などバリエーション多く掲載され、私がこれから毎日食べ続けても全てのメニューを制覇しきれないほど幅広い。

 戦後、沖縄戦で夫を亡くした女性が生活のため、現金収入を得るために沖縄そば店(食堂)を開業した方が多かったようだ。そして最も普及の原動力となったのは、民間人収容所で米国から大量の小麦粉が援助物資として配給されたため、その小麦粉で麺を作って空腹を満たしていた。時代背景で、生活が変化しながらも人々に愛された食べ物だった。
 著者の平川氏は、麺の歴史的な背景やルーツをさかのぼり、麺文化の発祥の地・中国を中心に、香港、マカオ、台湾、韓国、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、フィリピンなどのアジア周辺国の現状を取材。写真や解説を加えて分かりやすく紹介している。
 アジアの現状で面白いと感じたところは、「ラーメン」「うどん」などの日本の麺文化が、北京、上海、香港に逆輸入のように進出していることだ。日本人が作る繊細な味(かつおだしや魚介系だし)が、現地の人に「おいしい」と認知されてきたからだろう。
 著者は「沖縄ソバの中国大陸への進出は、私にとって大きな願望である」と書いているが、大いに同感した。
 アジア麺文化の過去、現在、未来を通じたこの本は、「沖縄そば」関連の貴重な参考書。一家に1冊、そして沖縄そば店主は必読の書。読んだ後には、沖縄そば店主の意識が変わり、大局的な発想を持ち、味の進化向上に取り組んでいくことでしょう。
(野崎真志・沖縄そば発展継承の会理事)
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 ひらかわ・むねたか 1945年生まれ。県獣医師会会長、フードライター、食文化研究家。著書に『沖縄トイレ世替わり』『沖縄のヤギ(ヒージャー)文化誌』など。