prime

<メディア時評・相次ぐ言論関連立法>国、恣意的に表現規制 広告、ネットへ安易な認識


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 今国会で、次々と表現行為に影響を与える法案が成立、または成立が見込まれている。しかも今後も、すでに順番待ちの状況だ。個々の法案の問題点は、すでに当欄で指摘したものも多いが、広告とインターネットをキーワードに、何が問題なのかを考えてみたい((1)~(3)は成立、(4)~(7)は審理中、(8)(9)は準備中)。

 (1)共通番号法(マイナンバー法)=閣法
 (2)ネット選挙運動解禁法(改正公職選挙法)=衆法
 (3)消費税還元セール禁止特措法=閣法
 (4)子どもポルノ禁止法改正案=衆法(議員立法)
 (5)災害対策基本法改正案=閣法
 (6)電波利用料改訂法案(電波法改正案)=閣法
 (7)薬品ネット販売解禁法案(薬事法改正案)=閣法
 (8)秘密保護法案(秘密保全法案)
 (9)国家安全保障基本法案(関連して、安全保障会議設置法案、自衛隊法改正案、集団自衛事態法案、国際平和協力法案)

■広告は規制可の誤り
 消費税還元セール禁止法の目的は、中小企業イジメを禁止することにある。例えば、大手スーパーが納入業者に対し消費税分を上乗せしない金額の仕入価格を強要することなどがあたるわけだ。
 それからすると、消費者向けの一般広告が、下請けイジメとはまるで関係ないのであって、法目的と規制手段の連関性がないことがわかる。しかも「3%値下げ」はよくて、「消費税増税分値下げ」は禁止という理屈は説明不能だ。これは、法規制に合理性や妥当性が欠如しているということで、憲法違反の可能性が高いとすらいえる。
 さらには、消費税還元セールを掲げることは、いわば広告表現を通じての、政府の政策に対する異議申し立てと見ることも可能である。そうした表現行為を禁止することは、税に関する議論を制約することにも繋(つな)がるといえるだろう。
 このような安易な表現規制が法制化される理由の一つは、「たかが広告」の意識が強いと想像される。実際、国会でも表現規制の観点の議論はゼロだった。確かに、広告には商業的側面はあるが、表現行為としてみた場合、それが営利的であるかどうかは関係ない。
 同じ発想は、憲法改正手続法における、商業広告の禁止にも現れている。改正案を国会が発議し、国民投票をすることが決まった際に、改正の是非を戦わせるべき期間の間、一般市民は一切、テレビ広告を打つことが禁止される。資金力の多寡によって差が出ることを防止するためと説明されている。
 しかしそのために、一切の、しかも放送媒体に限定した、さらには2週間という期間に限定して、広告のみを規制する合理的理由は見当たらない。まさに、「雰囲気規制」なのである。そしてこの例外は政党であって、しかも無料で広告を出すことができる仕組みになっている。
 同じ構図は、今回のネット選挙解禁法に見てとることができる。そこではネット有料広告が政党にのみ許可された。その裏返しは、個人は一切の広告が禁止されたということだが、政党名さえ書いてあれば、候補者名を入れることも可能という、「お手盛り自主規制ガイドライン」を政党間で決めてしまうというおまけ付きである。
 このように、広告分野においては、安易に表現規制を認めるとともに、広告主体を区別し、政党のみに特別な自由を与える構図にしていることがわかる。
 そこには、広告は経済的自由にしかすぎず、政府が自由に規制できるものとの思い違いが感じられるとともに、これを機に政党本位の情報の流れをつくってしまおうとの意図が見てとれるのである。とりわけ政治選択情報の分野において、このような恣意的な情報の流れを認めることは、大きな問題といわざるをえない。

■ネットも標的
 さらにここに、インターネット上の規制が重なるため、余計に問題は深刻化している。なぜなら、紙媒体等に比して、ネット規制もまた「安易」な表現規制の標的になっているからだ。先に挙げたネット選挙解禁法は、まさにネット上の一般有権者を含めた候補者の選挙活動の自由を認めたものであるが、一方で、新たな表現規制の先鞭(せんべん)をつけたものとして注意も必要だ。
 誹謗(ひぼう)中傷防止策として今回認められたのが、プロバイダーに削除を申し出れば、2日間の猶予を持って削除するというルールだ。既にあるプロバイダー責任制限法の7日間ルールの特例として決まったもので、選挙期間中という迅速処理が求められる場合にはやむなしという判断が大勢である。
 しかし、実際に申し出ができる候補者を想定すると、ネット対策に手を回すことができる有力(資金的余裕がある)者といえ、これは実質的な不平等を生む可能性がある、強力な表現規制手段が導入されたとの見方を可能としている。
 子どもポルノ禁止法改正についても、ネット事業者には、子どもポルノの所持を防止するため、捜査機関に協力する努力義務が課されるなど、ネットの拡散力等を前提として、リアル社会より一段厳しい規制を正当化している節がある。もともと現行法で十分対処できている状況に加え、単純所持禁止やマンガ・アニメ規制することで、子どもを守るという本来目的とは離れた、メディア規制目的となる可能性が指摘されている。
 本来、より自由な市民メディアとして規定されているネットが、より強力な表現規制の対象になるという状況を、なし崩しで受け入れるわけにはいくまい。国会はもちろん市民レベルでも、きちんと深い議論をする必要に迫られている。
 (山田健太専修大学教授=言論法)