組踊保存会 「高那敵討」を復活上演


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討ち入りで斬り合う(左から)若按司(宮城茂雄)、田里大主(宇座仁一)、高那大主(嘉手苅林一)=23日、浦添市の国立劇場おきなわ

 公演が途絶えている組踊を上演する伝統組踊保存会(島袋光晴会長)の復活上演「高那敵討」が6月23日、浦添市の国立劇場おきなわで行われた。宜野座村松田区に台本だけが残り、上演記録がなかった作品。親子愛や敵陣との頭脳戦、勇壮な討ち入りなど、見どころが詰まった舞台で観客を引き込んだ。照喜名朝一、西江喜春らベテランの地謡が支えた。

 2011年に松田区が復活上演した際に指導した嘉手苅林一が、立方指導や主役の高那大主を務めた。高那大主に滅ぼされた慶世盛按司の遺児・若按司(宮城茂雄)が、家臣の田里大主(宇座仁一)らと敵を討つ筋立て。
 若按司らと再会した家臣の有川の比屋(平田智之)が、妻子と別れる場面は見どころの一つ。父に付いていこうとする子どもたちを見た若按司は、自身の姿が重なったのか心を痛める。地謡が「東江節」や「伊野波節」で「親と子の仲はこのようなものか」と歌い、悲しみを引き立てた。
 若按司らはうその書状を使い、高那の側近である米須大主(川満香多)が内通しているように見せ掛ける。米須は同僚である盛本の子(儀保政彦)に捕らえられ、高那に処刑される。嘉手苅は荒々しい唱えや床を踏み鳴らす演技で、疑い深く短気な高那になりきった。
 討ち入りに向け、田里がそれぞれに役割を命じる「手配」や、若按司のなぎなたの演武が緊迫感を高めていく。激しい斬り合いの末に高那を討ち取る若按司。そこに臣下が「(敵の)妻も子どもも殺しました」と報告する。親子愛を描いた前半からの落差が激しく、戦の残酷さを見せつけられた思いだった。
 全体的な印象は良いが、一部の立方が重要な場面で、唱えを少し詰まらせたり速く言い過ぎたりしていたのは惜しまれた。唱えが詰まった部分は字幕も消していたが、戸惑った観客もいたのではないか。
 出演者が高い技量を持っているため、約1カ月の短期間で舞台をつくり上げることができた。出演者のスケジュールを合わせるのは大変だろうが、何カ月も前から準備して完璧に仕上げるのが理想ではある。眞境名正憲副会長は「伝統組踊保存会の復活上演は、今後ほかで上演する際の基礎データになる」と意義を説明する。それだけに、より高い完成度を追求してほしいと感じた。(伊佐尚記)