知念、新境地開く 「大島カンツミー物語」


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カンツミー(左、知念亜希)のたたりで妻(右、瀬名波孝子)を殺してしまう恵家の主人(糸数きよし)=26日、浦添市のてだこホール

 沖縄芝居研究会(伊良波さゆき代表)は26日、浦添市のてだこホールで、怪談劇「大島カンツミー物語」(作者不詳)と現代明朗歌劇「えにし」(渡嘉敷守礼作)を上演した。

「大島―」は奄美の伝説を基にしている。知念亜希が非業の死を遂げて幽霊となる少女カンツミー役に挑戦。これまで純粋な役が多かったが新境地を開いた。カンツミーの恋人・岩加那役は、比較的芝居の経験が浅い平敷勇也が抜てきされた。爽やかな二枚目ぶりを見せ、恋人を失った悲しみを表情豊かに演じた。演技指導は瀬名波孝子。
 貧しいカンツミーは父(宇座仁一)に連れられ、金貸しの恵家(みぐみやー)に奉公に出される。美しく成長したカンツミーは、恵家の主人(糸数きよし)に言い寄られる。それを見た主人の妻(瀬名波)は激高。カンツミーの顔にやけどを負わせる。手で顔を覆い絶叫するカンツミーと妻の悪女ぶりに圧倒される。それは2人の女優の真剣勝負にも映る。
 将来に絶望したカンツミーは首をつる。だが悲哀だけで終わらないのが沖縄芝居。下男役の金城真次と大城常政が、亡きがらに腰を抜かして笑いを誘う。絶望と笑いという両極の表現で観客を揺さぶる。
 カンツミーは幽霊となり、岩加那や恵家の前に現れる。客席から思わず悲鳴が上がった。われを失った主人は妻を殺し、自らの命を絶つ。糸数の濃い存在感は、若手中心の舞台に芝居らしい匂いをもたらした。
 笛の宮城英夫は不穏な音色で幽霊の登場を演出した。歌三線は仲宗根盛次と大城幸雄。場面転換などに奄美民謡「大島チョッキャリ節」を用いた。カンツミーが自殺する場面は、琉球古典音楽の「散山節」で深い悲しみを表した。
 今後は「かんつめ節」などの奄美民謡や、伝説でカンツミーの霊が岩加那に歌う「あかす世や暮れて 汝きゃ夜や明けり…(あの世は暮れて あなたの夜は明ける)」を取り入れても面白いのではないか。
 同時上演の「えにし」は、マチュー(金城)とカマデー(平敷)が、浜下りで出会った仲村家の姉(儀間佳和子)と妹(永田加奈子)に一目ぼれする。「大島―」と対照的に初々しい恋がほほ笑ましかった。その他の出演は伊良波、謝名堂奈津、福島千枝、春洋一、赤嶺啓子、福永愛華。(伊佐尚記)