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【深掘り】沖縄の大型MICE施設 「本命」と目された大手撤退 事業の先行きに不透明感   


【深掘り】沖縄の大型MICE施設 「本命」と目された大手撤退 事業の先行きに不透明感    MICE予定地となっているマリンタウン地区=2018年
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄県が民間資金活用による社会資本整備(PFI)方式で計画する与那原町と西原町にまたがるマリンタウン地区への大型MICE施設建設事業について、参入が有力視されていたゼネコンの大林組(東京)が応札を見送る意向を示した。本命と目された大手の撤退にも県は「県外や海外の事業者に向けても広く募っている」として問題はないとの認識だが、建設資材など諸費用が高騰する中で、PFI方式による事業の先行きに不透明感が強まっている。

 事業を巡っては、2017年に大林組を代表企業とする共同企業体(JV)がいったんは落札し、20年開業を目指した。しかし、財源と見込んだ沖縄振興特別推進交付金(一括交付金)の交付は国が認めず計画が中断。県は施設規模や整備手法を見直し、民間資金活用によるPFI方式の導入を決めた。

ホテル事業ネックに

 計画の中断以降、県は関係団体などと意見交換を重ね、ホテル事業を大型MICE参入の要件とした。国際的な知名度を上げるためには宿泊施設は必須といった考えだった。ただ、その要件こそが大林組が入札を見送った要因の一つとされる。

 観光経営を専門とする沖縄キリスト教学院大学の上地恵龍副学長は「コロナ前と比べて建築費や人件費、物価などが高騰し、状況が全く変わってしまった」と説明する。

 県ホテル協会の平良朝敬会長は「周りに観光資源のない場所に一般客が来るのかという視点から、MICEが開かれない時の稼働率など、ホテル事業のリスクは大きい。大林組は総合ディベロッパーではないので、この条件では撤退するのが普通だ」と分析した。

高いハードル

 民間が主体的に手掛けるにはハードルが高い、との見方が建設業界などに広がる。

 JVに参画予定だった建設業関係者は「行政が担うべき役割やリスクが民間に下りてきている」とし、現行の枠組みへの県の関わり方に疑問を投げかける。「一括交付金で進めることが前提で、県も責任もリスクも持つ体制だったのが、PFIは施設建設後にホテル誘致、運営するリスクを民間に負わせる形になっている」とした。

 PFI方式への参入について、県は参加表明書の受付期間の9月2~18日に応札がなかった場合は、条件や時期などを見直して再度入札公告を検討するとしている。

遅れへの懸念

 15年の建設地決定から既に9年が経過。与那原町の担当者は「地元を挙げて受け入れの勉強会をするなど、MICEの誘致にはかなり期待している」とさらに遅れが出ることを懸念する。西原町の担当者も「面的整備で地権者との合意形成に5~6年はかかる。MICE本体が進まないことには町の取り組みも始められない」と指摘した。

 上地氏は大型MICEの早期実現のため「建築、設計、MICE、ホテル、公共交通のプロなど専門家を集めたチームをつくり議論し直すべきだ」と強調。その上でホテル建設の代替案として「MICEエリアと那覇間のシャトルバスの運行などの検討も必要だ」と提言した。

(與那覇智早、島袋良太)


 MICE(マイス) ビジネスイベントの総称で、企業などの会議(ミーティング)、報奨・研修旅行(インセンティブトラベル)、国際機関、学会などが行う国際会議(コンベンション)、展示会・見本市、イベント(エキシビション・イベント)の英語の頭文字から取った言葉。利用者の長期滞在が見込まれ、大きな経済効果が期待できるとされる。