世代交代を象徴 若手で「執心鐘入」再演


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 国立劇場おきなわの開場10周年を記念した祝賀公演が18日、浦添市の同劇場で開かれた。2004年のこけら落としで演じた組踊「執心鐘入」を再演。立方と歌三線、笛を同劇場の組踊研修修了生で固め、伝承者養成の成果を披露した。

 幕開けは、戦後の芸能をけん引した国指定重要無形文化財「琉球舞踊」保持者が「かぎやで風」を踊った。重鎮から若手への継承を象徴する舞台となった。
 「執心―」の立方は金城真次、佐辺良和、川満香多、田口博章、西門悠雅、玉城匠。地謡は仲村逸夫、玉城和樹、仲村渠達也、大城貴幸、入嵩西諭、安里ヒロ子、新城清弘、宇座嘉憲。指導は宮城能鳳、城間徳太郎、照喜名朝一。
 粗筋は、美少年の中城若松(金城)が、旅の途中で泊まった宿の女(佐辺)に言い寄られる。若松は寺に逃げ込み、女は思いが強いあまり鬼に変わる。
 こけら落とし公演映像を見ると、当時ベテランの能鳳が演じた宿の女は、より深い女の情念を感じさせる。一方、佐辺が演じた宿の女は「花ざかり女」という詞章通り、若々しい色香がある。
 こけら落としでは宿の女が鐘に入った後、鐘の横に設置した黒幕に隠れて鬼女役と入れ替わった。今回は佐辺が鐘の中で早変わりし、そのまま鬼女を演じた。鐘の中で早変わりすると、着付けの乱れなどの恐れがあるという。それでも、1人で宿の女と鬼女を演じた方が自然だと感じた。
 小僧3(玉城)は居眠りする小僧1(田口)、小僧2(西門)の頭をたたいたり、生意気な口を利いたりとユーモラスな演技も見せた。だが今回は普段より客席の笑い声が少なく、観客も緊張しているようだった。また、こけら落としでは鬼女を退けた後、小僧3がほっと胸をなで下ろして笑いを誘った。今回はその場面がなく、あっさりした印象を受けた。
 佐辺は公演後、「こけら落としにも舞踊で出演したが、当時より継承していく責任を感じる。舞台の怖さも昔より感じるようになった。一つ一つの舞台を大切にしたい」と話した。
 今回の祝賀公演は招待客のみだった。だがこの10年、劇場は観客に支えられて成長してきた。一般客向けにもう1回「執心―」を披露してもよかったのではないか。
 10年間で若手が成長し層が厚くなった。ただ、県内外に知られる“スター”の誕生には至っていない。10年後、20年後さらに隆盛にするためには、個々の実演家だけでなく支援する周囲の関係者も一層の努力が求められる。組踊立方は50~60代が少なく、優れた指導者を輩出し続けることも課題となってくるだろう。(伊佐尚記)

「執心鐘入」を演じる佐辺良和(右)と金城真次=18日、浦添市の国立劇場おきなわ
「かぎやで風」を踊る国指定重要無形文化財「琉球舞踊」保持者=18日、浦添市の国立劇場おきなわ