又吉さん小説「ギンネム屋敷」 韓国に 50年代、浦添描く


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 【浦添】芥川賞作家の又吉栄喜さん(66)の小説「ギンネム屋敷」(1980年)がこのほどハングルに翻訳され、韓国で紹介されている。又吉作品は英・仏・伊・ポーランド語に翻訳されているが、韓国語訳は初めて。

浦添市城間で生まれ育ち、「(家から)半径2キロの世界」の体験を基に物語を構築してきた又吉さんにとって、ギンネム屋敷は少年期の原風景でもある。
 第4回すばる文学賞を受賞し、初期代表作の一つである同作は、沖縄戦から8年後、米軍占領期の浦添市が舞台。ギンネムの生い茂る屋敷に住む米軍エンジニアの朝鮮人男性に女性暴行の疑いが持ち上がり、沖縄の男たちが慰謝料を要求しに屋敷へ乗り込んでいくところから始まる。又吉さんは「今の浦添工業の辺りだと思うが、谷底の道が曲がった辺りにギンネムに囲まれた屋敷が実際にあった。外国人が暮らしていると、うわさで、僕らは幽霊屋敷として扱っていた」と振り返る。
 少年時代、キャンプ・キンザーの門前町だった屋富祖・城間一帯では、Aサインバーや映画館、食堂といった基地従業員相手の店が並び、商売をしに沖縄中から人が集まり糸満や宮古の言葉が飛び交った。「当時はフィリピンや台湾、朝鮮などの外国人が近所にいてインターナショナルなところがあった。人骨や不発弾もごろごろしていて、スクラップ拾いで小遣いを稼ぎ、Aサインバーで米兵が暴れる。沖縄を象徴するいろいろなものが半径2キロに集積していた」と創作の原点を語る。
 小説は、沖縄戦直前に飛行場建設のため徴用されてきた朝鮮人男性の過去が語られだす後半から、現実と幻想の境界が揺らぎだす。沖縄人の朝鮮人に対する加害と差別、人身や社会を狂わせた戦争の暴力性が浮かび上がる。「小説は朝鮮人にも沖縄人にも同情せず、人間を洗い出す。テーマを底に沈め人間を描くことで物語は普遍性を持つと思う」と語る。
 昨夏に韓国の出版社から翻訳出版の依頼があった。世界の代表的な文学作品を集めた季刊誌「GLOBAL WORLD LITERATURE VOL.3」(2014年春号)に収録する形で、3月末に韓国内で発売された。又吉さんは「少年期の印象に残った風景が小説に形を変えてアジアに広がる。そこに文学の醍醐味(だいごみ)がある」と語る。
 「沖縄の中の小さな点みたいな日常が、パリやソウルの大都会でも読まれる。アジアに普遍していく小説を、沖縄の若い書き手に望みたい。沖縄文学はアジア文学、世界文学なのだから」と次代の担い手に要望した。

「少年期の体験が小説に形を変えて表れ、それがアジアに広がって読まれることに醍醐味がある」と語る又吉栄喜さん=18日、那覇市内
「ギンネム屋敷」の韓国語訳が収録された季刊誌