異色組踊彩る女形の優美 田里朝直作「月の豊多」


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 国立劇場おきなわの組踊公演「月の豊多(つぃちぬとぅゆた)」(田里朝直作)が7月26日、浦添市の国立劇場おきなわで開催された。糸満市で行われた過去の上演では女性が月の豊多を演じたが、国立劇場での上演に際し、初めて女形で演じた。月の豊多役の宮城茂雄をはじめ、女形独特の美しさが光った。サンパチロク(8・8・8・6)にはまらない散文のせりふや首をつる場面など「異色の組踊」(宮城)に挑んだ。

 「月―」を含む田里の組踊四番の台本は1988年、研究者の當間一郎氏が大田静男氏から情報提供を受け発見した。四番は「月―」「未生の縁」「身替忠女」「北山崩」。「月―」は99年、糸満市で地元ゆかりの組踊として243年ぶりに上演された。
 當間氏によると、「月―」「未生―」「身替―」は1756年より後は上演されていない。その理由について、當間氏は「月―」の首つりや「身替―」の生首、「未生―」の毒を盛る場面が「儒教道徳思想に反したのではないか」と推測する。3作品とも組踊に定番の忠孝を描いているが、どきりとするほど劇的な場面があるのが興味深い。
 今回の立方指導は金城清一が初演から引き続き担当し、地謡指導は濱元盛爾が務めた。粗筋は高嶺の按司(呉屋智)が未亡人の月の豊多を側室にしようとする。両親(平田智之、阿嘉修)は快諾するが、亡夫に忠節を尽くす月の豊多は自殺を図る。
 台本のせりふでは首つりの場面は「桁にさがら」となっているが、組踊の舞台には桁がない。腰の紫長巾(むらさきながさーじ)を桁に掛けるような所作をし、紫長巾を首に巻いて両手で上げることで表現した。首をつる瞬間は背中を見せ、前を向きながら崩れ落ちるといった動きで様式的な美を保った。
 息を吹き返した月の豊多が、激高する高嶺に亡夫への思いを語る場面も見どころだ。はかなげな美しさから一転、芯の強さを打ち出して観客を引き込んだ。強引だった高嶺は月の豊多に感心し、無礼をわびる。ほかの田里作品と同様、人情味のある結末も良かった。
 その他の出演は田口博章、池間隼人、大城常政、山入端實ら。地謡は仲嶺伸吾、上原睦三、與那國太介、仲宗根巴津美、入嵩西諭、川平賀道、金城盛松。
 組踊前の舞踊では、仲程めぐみと仲真あけみの「加那よー天川」で独自の演出を試みた。後段の踊りに入る前に箏の音とつらねを挿入し、よりロマンチックになった。(伊佐尚記)

◆演者に観客が質問 上演後トークを初開催
 「月の豊多」の上演後、出演者と観客が交流する「アフタートーク」が初めて開かれた。約30人が参加し、主演の宮城茂雄に質問した。
 宮城は役作りについて、「組踊の立方は唱えが命だ。歌のように旋律がついているが、言葉としていかに伝えるかが大切になる。抑揚の中で強弱をつけて役が生きてくる」と話した。
 「月の豊多」については「普通の組踊のせりふは定型詩だが、『月の豊多』は散文で旋律が『執心鐘入』のようにいかない。うねりがあって、明らかに意図して書かれていると思う場面がある」と説明した。
 好きな役に「花売の縁」「大川敵討」の乙樽や敵討物の若按司を挙げ、「若按司は強すぎても弱すぎてもいけない中間具合、武士として一人前でない初々しさをどう演じるかが楽しい」と語った。

高嶺の按司(右端・呉屋智)に亡夫への思いを語る月の豊多(左から2人目・宮城茂雄)=7月26日、浦添市の国立劇場おきなわ
観客の質問に答える宮城茂雄(右端)=7月26日、浦添市の国立劇場おきなわ