脳脊髄液減少症 周知進まず患者苦悩


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 交通事故やスポーツ事故の転倒などによる衝撃で脳脊髄液が漏れて減少し、激しい頭痛、めまい、耳鳴り、頸部(けいぶ)の痛みなどさまざまな症状を引き起こす「脳脊髄液減少症」という疾患がある。

病名が周知されておらず、診断基準や治療方法も確立されていないため、適切な医療機関につながりにくく、「怠け病」「精神的なもの」と誤解されがちで、患者と家族が精神的に追い込まれる実態がある。有効とされる治療法も保険適用外で、患者は経済的な負担も抱えている。(高江洲洋子)

 県内の患者数は把握されていないが、県薬務疾病対策課は「(交通事故の)追突やスポーツの転倒が引き金になるので、ある程度はいるのではないか」と話す。県内では2009年に患者団体「県脳脊髄液減少症患者支援の会」(仲吉勝弘代表)が発足した。支援会によると県内には専門医が少ないため、県外で治療を受ける人が多い。
 2012年3月に西原町内の小学校で体育の授業中に起きた事故で男子児童(現在は中学生)が脳脊髄液減少症を発症し現在、県外の医療機関で治療を続けている。
 同減少症の治療の第一人者で、国際医療福祉大学熱海病院=静岡県熱海市=の篠永正道教授(脳神経外科医)は「車の追突事故による軽いむち打ち、スポーツ中に頭や腰、背中を打つとか、尻もちをついて発症するなど軽い外傷の後に生じることが多い」と話す。10日前後横になって安静にしていれば、8割以上は自然治癒するとされる。治療には硬膜外腔に自分の血液を注入して漏れを止める「ブラッドパッチ治療」や人工的に髄液を増やす方法がある。
 複数の医療機関が2007年に厚労省の補助金を活用し、脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班を立ち上げ、病態の一つで、脳脊髄液の漏れが画像上分かる「脳脊髄液漏出症」について診断基準を作成した。先進医療施設に指定された医療機関を受診し、この診断基準に該当していれば、ブラッドパッチ治療に関わる検査や入院費用に公的保険が適用されるが、治療そのものは自費扱い。しかし、仮認定NPO法人脳脊髄液減少症患者・家族支援協会の中井宏代表によると、症状はあっても画像では漏れが確認できない人も多く、診断基準は患者の1割しか該当しない。多くが高額な医療費を自費で支払っている。
 医師の間でも疾患に対する見解が分かれているほか、専門医が少なく治療できる医療機関が限れている点も課題だ。篠永医師は「傷を受けた後1~2週間、横になって寝ているだけで多くの人は漏れが止まることが多い」と述べ、病気の周知が必要とした。

<用語>脳脊髄液減少症
 交通事故やスポーツの転倒による衝撃などで脳脊髄液が漏れて減少し脳が下がり、脳と頭蓋骨をつないでいる血管や神経が引っ張られて脳の機能が低下し、さまざまな症状が生じる疾患。症状には頭痛やめまい、耳鳴り、頸部の痛み、気力低下、視力低下、光過敏などがある。