『琉球史を問い直す』 独自の歴史像を再構成


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『琉球史を問い直す』吉成直樹・高梨修・池田榮史著 森話社・2900円+税

 本書は、琉球史研究の課題に近年精力的に挑戦する吉成直樹、高梨修、池田榮史による共著である。表題が示すように、古琉球時代の研究史を批判的に検討する中で、従来の琉球史研究の在り方を見直すことを主眼に書かれた古琉球時代論である。

 紙幅の大半は吉成の論文で構成されるが、高梨と池田による考古学研究の最新の成果を補論に加えたことで、その内容に厚みが増した。
 吉成は冒頭で、古琉球の時代を取り上げるのは従来の研究に「内的な発展論」「沖縄島中心史観」といった二つの偏りがあるからだとその理由を説明する。また、そうした状況が生まれた背景を鋭く指摘し、王国成立の琉球の歴史が沖縄本島における内的な発展で説明しうるのかと問う。
 本論ではグスク時代の開始、14世紀代の社会変革と交易システムの転換、「三山時代」から琉球国へ、14世紀代の交易システムの転換の要因、古琉球時代の琉球国の5項目を掲げ自説を展開する。いずれの項目も古琉球時代における歴史過程の画期をなすものとして重要だが、項目ごとに多くの論者の説を紹介し、批判的に検討する。難しい内容にもかかわらず簡潔明瞭に記述され大河ドラマのように評者を引き付ける。
 確かにこれまでの琉球史研究では琉球国の形成やその前史に当たる歴史認識については、狩猟採集生活のなかから徐々に農耕社会へと移行し、やがて琉球王国が形成されていくという内的な発展で説明されてきた流れがある。本書はそうした内的な発展論に対し痛打を浴びせる内容になっている。
 でも本書の特徴はそれだけではない。あえて言えば、著者の一人高梨が述べるように、「琉球考古学の調査研究に対する配視が随所にあり、それらの単なる縮約に止まらず、アジア海域の動態を俯瞰(ふかん)する広大な視野から独自の歴史像が再構成」された好著である。
 吉成が主張する琉球王国「去勢された倭寇国家」論など、いずれにしろ琉球史研究に、一石を投じる書といえるだろう。(當眞嗣一・沖縄考古学会会長)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 よしなり・なおき 1955年生まれ。法政大学沖縄文化研究所教授。地理学、民俗学・民族学。
 たかなし・おさむ 1960年生まれ。奄美市立奄美博物館学芸員。日本考古学。
 いけだ・よしふみ 1955年生まれ。琉球大学法文学部教授。考古学。

琉球史を問い直す―古琉球時代論 (叢書・文化学の越境)
吉成 直樹 池田 榮史 高梨 修
森話社
売り上げランキング: 29,353