【チャイナ網路】「破氷の旅」もろ刃の剣


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わたなべ・ゆきこ 西南学院大学卒。台湾大学文学修士。現在、沖縄大学人文学部・国際コミュニケーション学科講師。琉球新報編集局嘱託。

 国民党の江丙坤副主席は先月末中国を訪問し、中国共産党要人と会見した。両党が相対したのは、実に56年ぶり。「破氷の旅」と名付けられたこの訪問で、氏は「10項目の合意」を取り付け、帰国した。が、この“成果”が、台湾政府を大いに困惑させている。

 合意の内容は、直行チャーター便の定期化や台湾の農産物に対する関税、検疫等の優遇措置、台湾への観光客誘致など、経済問題が中心だ。「大陸との協調関係なしに、台湾経済の未来はない」と主張してきた江氏らしい内容と言える。
 しかし、訪問したタイミングが悪かった。中国の「反国家分裂法」反対の大規模デモを行った直後だ。笑顔で“敵”と握手をしているようでは、デモの効果は半減する。その上、訪問が台湾政府の了承を得ていなかったことも、政府の逆鱗(げきりん)に触れた。
 が、最も問題なのは、合意の内容が台湾国民の支持を集めていることだ。そこに約束されているように見えるのは、台湾政府が“やる”と言いつつ実現できなかった限界の向こう側。政府が簡単にのめる状況ではないが、のまなければ、民意を失う。