夏至のカナダで感じたアジアへの熱視線~Music from Okinawa・野田隆司の世界音楽旅(3)

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空港からカルガリー市内までは30分足らず。空の広さが圧倒的。

カナダ西部の都市、カルガリー。夏至の太陽がジリジリと肌を刺す。ダウンタウンから、ミルズ・エステートと呼ばれる街の東側のエリアまで30分ほど。ぶらぶらと散歩がてら歩いてみる。同じ北米でも、アメリカの都市にいるような緊張感はない。途中、ポー川の近くの大きな公園で、夏至を祝う先住民族のライブイベントが行われていた。人々は緩やかな傾斜の芝の上に、思い思いに腰を下ろして音楽を楽しんでいた。


スレッド・アイランド・ブロック・パーティー。フードトラックが並ぶ。

そんな風景を横目に目指したのは、ここからさらに15分ほど歩いたブロック・パーティーが行なわれている一角。ブロック・パーティーは、街の一つの街区を使って行なわれるストリート・パーティーのこと。通りの一角を通行止めにして、音楽のステージを中心に屋台や雑貨のブースが並んでいた。たくさんの人が、ゆるいアンビエントなクラブミュージックを聴かせるユニットの演奏に体を揺らしながら、新しい夏の始まりをしみじみと味わっているように見えた。





カルガリーで毎年夏至の時期に開催されるスレッド・アイランド・ミュージック・アンド・アート・フェスティバル(Sled Island Music & Arts Festival)に行くことになったのは、ディレクターのモウド(Maud)が、沖縄の女性2人組のバンドHARAHELLS(ハラヘルズ)を招いてくれたのがきっかけだ。前の年に、韓国・ソウルのイベントで二人の演奏を聴いた彼女からオファーが届いたのだ。
このフェスの期間中、HARAHELLSには、ありがたいことに3回の演奏の機会が準備されていた。ただ250組以上のバンドが参加するショーケース・フェスティバルだけに、宣伝が行き届かないと、どれだけの人がライブに足を運んでくれるのかまったく読めない。アウェイ感は強いが、いつもと同じように宣伝用のチラシを会場で配り歩いて、SNSでの拡散を繰り返した。
モウドは、直前の SNSで、「HARAHELLSは素晴らしいから見逃さないで」と書き込んでくれた。ディレクター自らの後押しはありがたい。


バンドメンバーが直接フライヤーを手渡すのが一番のプロモーョン。他にやっているバンドは見なかった。

このフェスティバルは、音楽がメインではあるが、映像やコメディ、アートなどのイベントもあって、様々なテーマのカンファレンスも行われる。
会場はカルガリーのダウンタウンを中心に40か所以上。キャパシティも40人から1400人と様々だ。ライブハウスやパブ、バーをメインに、クラシカルな劇場や映画館、図書館なども使われる。
新たな才能を紹介するためのショーケース・フェスティバルではあるが、キュレーターがブッキングしたアーティストも何組かいた。ジャパニーズ・ブレックファースト(Japanese Breakfast)やジュリアン・ベイカー(Julien Baker)など、北米でブレイクしつつある人気バンドもラインナップに入っていて、1400人の会場が札止めになるほど。チケットの売れ行きは悪くないようだった。観客を呼べるバンドをブッキングしながら、合わせて新しいバンドも聴いてもらうという主催者の意図が見てとれた。


話題のJapanese Breakfast(ジャパニーズ・ブレックファースト)。ミシェル・ザウナーのソロプロジェクト。

Hop Along(ホップ・アロング)。Japanese Breakfastと同様、拠点はアメリカ・フィラデルフィア。グランジ、フォーク、パンク、様々なジャンルの音楽が凝縮されたサウンドが好評。


事前には知らされていなかったものの、私は、パネルに登壇することになっていた(現地で見たパンフレットに名前があった)。テーマは、“東アジアでいかに、観客とツアーを造成するのか”。
私たちにとって、北米のマーケットが未知であるのと同様に、北米のアーティストにとってアジアのマーケットへのアプローチの仕方はわかりにくいと思う。高いポテンシャルのあるアジアのマーケットに関心のあるアーティストは多いらしく、会場の図書館は、ほぼいっぱいの人で埋まった。
HARAHELLSが沖縄からこのフェスティバルに参加しているように、未知のマーケットの入り口になりうるのが、ショーケース・フェスティバルであるという話をしたのだが、果たして伝わったかどうか・・・。


カンファレンス会場。カレッジ・ラジオのネットワークのパネルディスカッションが行われていた。

滞在中の食事は、ハンバーガー、サンドウィッチ、ピザが中心。どれもいい値段。

カンファレンスへの登壇で、HARAHELLSのライブを一つ見逃すことになり、最初に聴けたのは、土曜日の深夜、会場は”#1 LEGION”という退役軍人クラブのホールだった。宣伝が功を奏したか、会場は開演前から多くの人であふれかえった。

ライブの前、英語での喋り(MC)の打ち合わせ。ステージから現地の言葉で意識的にコミュニケーションを図ることは大切だ。簡単なやり取りでも距離はぐっと縮まる。浴衣をつけて、少したどたどしい英語ながらも客席に語りかけ、自分たちの楽曲をバッチリ演奏する。客席の反応は上々だった。ライブ反応の良さは、終演後の物販の売れ行きにもあらわれ、会場を後にしたのは深夜2時を回っていた。


HARAHELLS(ハラヘルズ)の2回目のライブには、予想を超える観客が訪れた。

ショーケース・フェスティバルの楽しさの一つは、新たなバンド・アーティストの発見だ。何しろ250組が出演するので、すべてを見るのは不可能だが、スケジュールを眺めて当てずっぽうで、会場をのぞく。経験上、そうした場所で、新たな出会いが生まれることも少なくない。

アメリカ・シカゴ出身のシンガーソングライター、ターシャ(Tasha)もそんな一人だった。エレキギターの弾き語りでのパフォーマンス。途中のMCで、自分は性同一性障害なのだということをサラリと話す姿が印象的だった。柔らかであたたかな歌声の裏側には、どこかクールな面も併せ持っているように感じた。こういう才能を一つでも多く、日本、沖縄に届けられたらと、あらためて思った。


Tasha(ターシャ)は、エレキギター1本というミニマルなスタイルでのライブ。韓国のnumnumは、芯のあるポップミュージックとポストパンクの要素をミックスしたバンド。

HARAHELLSの最後のライブは、期待のあらわれか、最終日のトリ前という素晴らしい時間帯に入れてもらえた。会場のPALOMINOは、フロアの中央に巨大なバーカウンターがあるライブパブ。2回だけだがライブをやったことで、HARAHELLSの噂は浸透してきているようで、開演前のサウンドチェックの時には、身動きが取れないほどの観客で埋まった。


HARAHELLS最後のライブ。会場のPALOMINOには、多くの観客が集まった。こうしたパブは、街のインフラとしての役割としての機能もあるようだ。

私は少し遠巻きに、物販スペースからライブを見ていたのだが、観客の反応はとてもヴィヴイッドな感じで、演奏を楽しんでくれているように感じた。40分ほどのライブで、また新たなファンをつかむことができたようだった。

HARAHELLSの2人も、私自身も、観客のポイティブな反応に、とても勇気づけられた。こういうことを繰り返していけば、何ヶ所かツアーを組むことだって可能なのかもしれない、そう勘違いしてしまうほどの熱さだった。もちろんツアーを組むとなれば、ビザの問題をはじめ多くの課題がある。それはアーティスト側というよりも、マネジメント側に課せられるものだ。現状、そうしたノウハウは持ち合わせてはいないが、近い将来、確実に必要になるということを実感した。今は目の前のハードルを一つずつクリアして、道筋を作っていく時間なのだ。


長い貨物列車が通り過ぎるまで、遮断機は下りたまま。

ブロック・パーティーは、このフェスティバルのプログラムの一つとして行われていた。通りの一角になんとなく近所の人が集まって、ビールを飲みながら音楽を楽しむ。日本では馴染みの薄い文化だが、とても贅沢な時間のように感じられた。会場そばの線路を東海岸まで大陸を横断する、長い貨物列車が通り過ぎていった。




【筆者プロフィール】
野田隆司(のだ・りゅうじ)

桜坂劇場プロデューサー、ライター。
1965年、長崎県・佐世保市生まれ。
「Sakurazaka ASYLUM」はじめ、毎年50本以上のライブイベントを企画。
2015年、音楽レーベル「Music from Okinawa」始動。高良結香マネージャー。



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