劇場を新しい〝広場〟に 宜野座・がらまんホールアートマネジャー 小越友也さんの思い 【となりの人となり】


社会
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ホールのイベントを企画・運営し、アートと人々をつなぐお仕事とは?
「がらまんホール」のアートマネージャー、小越友也さんにお聞きしました。

(聞き手・田実信之)

小越友也さん 撮影・屋比久光史

地域に開かれたホールとは

1月19日、宜野座村では「第3回やんばるの食フェス」が開催されます。そのメイン会場となるのが、村の目抜き通りに面した「がらまんホール」。コンサートや展示会などさまざまなイベントを催し〝アートの発信地〟となっている施設です。これらの企画を取り仕切っているのが、アートマネージャーの小越友也さんです。

「宜野座村は田舎ですが、それが長所でもあります。コンサートの後でホールから出ると、都会の喧騒ではなくきれいな夜空が広がっている。余韻をそのまま持ち帰れるんです」

小越さんは広島県出身で、琉球大学への進学を機に沖縄に移住。学生時代から音響スタッフとして舞台の裏方を経験し、アートへの見聞を深めてきました。その彼が「ホールの運営」という仕事に関わるようになったのは、佐敷町シュガーホールの芸術監督だった故・中村透さんとの出会いでした。

ホールは緊張に満ちた場所と思っていた。

「中村さんは作曲家であると同時に、アートと地域をつなぐ『アートマネジメント』にも詳しい方でした。僕は大学の研究室で中村さんに師事し、卒業後もそのお手伝いをしたことで、アートマネジメントに興味を持つようになったんです」

シュガーホールで佐敷町の人々による手づくりミュージカルが上演された時、小越さんも音響スタッフとして参加しました。そこで、町の人々とシュガーホールの関わりにカルチャーショックを受けたそうです。

「僕はピアノを習っていたこともあって、ホールは緊張に満ちた場所というイメージがありました。でも、ここではみんなワイワイ楽しそうに稽古をして、週末にはホールの庭でバーベキューをやったりする。地域の人たちがいろんなつながり方をしていて、これこそ『地域に開かれたホール』のあるべき姿だと思いました」

その後、小越さんは宜野座村に由来する演劇の音響・音楽を担当した縁で、05年にがらまんホールのアートマネージャーに就任します。常駐の職員は自分だけ。事務所はインターネットもつながっていないという状況からのスタートでしたが、師である中村さんのように、ホールを地域に開いていくという挑戦が、この時から始まりました。

小越友也
おごし・ともや

広島県生まれ。1995年、琉球大学に入学。在学中に作曲家・中村透氏からアートマネジメントについて教えを受ける。2005年、宜野座村文化センターがらまんホールのアートマネージャーに就任。宜野座国際音楽祭など数々のイベントを手掛ける。

劇場を人の集まる〝広場〟に

今でこそ海外から演奏家を招いての「宜野座国際音楽祭」などを開催しているがらまんホールですが、最初から大きなイベントを開けたわけではありません。

今年で4回目の宜野座国際音楽祭。イタリアのジャズトランペット奏者、エンリコ・ラヴァ氏を招いた(©NAKAMURA YUTA)

「宜野座高校でバンドをやっている子たちに声をかけてライブを開いたり、ロビーでドリンクを提供する『大人の音楽会』を開いたり…。どうやったら地域の人たちに足を運んでもらえるかと考え、手探りでいろいろ試していきましたよ」 

小越さんが念頭に置いていたのは、劇作家・平田オリザさんの「劇場を新しい広場に」という言葉でした。

「広場というのはいろんな人がいろんな物に出合う場です。このホールも音楽や演劇に限らず、広い意味でアートと出合える〝広場〟にしたい。その目的で、展覧会や講演会、ワークショップなども開催しています」

創造性を育むためにアートは必要です。

ワークショップによる子どもたちの作品展示(©NAKAMURA YUTA)

海外の写真家や画家を招いてワークショップを行い、その作品をホール内で展示したりなど、コンサートホールの枠にとらわれない催しも数多く行うようになりました。今、小越さんの発想はホールの枠も飛び越えて宜野座村全体を巻き込みつつあります。

「音楽祭に招いたアーティストを村内の小学校へ連れていってコンサートを開いたり、道の駅で写真家の作品展をしたり。ホールだからこそできる活動もやりつつ、地域にも手を伸ばしていく。そうやって人とアートをつないでいきたいんです」

がらまんホールを中心とした〝広場〟は今も成長を続けています。いずれ村全体を覆うようになるのでしょう。

AI時代に必要なアート

アートの重要性について、小越さんは次のように語ります。

「今後AIがいろんな仕事をこなすようになると、人間にできるのは創造的な仕事に限られてくるでしょう。その創造性を育むには、日頃からアートに触れたり自ら発信したりする経験が必要です。つまりアートのインプットとアウトプットですね」

道の駅などホール以外の場でも作品展を開いているのは、地域の人々にインプットの機会を増やそうという試みです。子どもたちによる作品の発表などはアウトプット。小越さんはこの2本柱で、地域の人々のアートの素養を深めようとしています。

海外のアーティストを小学校に招いてのワークショップもたびたび行っている(©NAKAMURA YUTA)

「日本はヨーロッパに比べ、まだまだアートと人々の間に壁があると感じます。それをもっと生活に密着したものに変えていきたい。これからの時代、生きていく目的を探す中で、アートに触れることはとても大きな意味を持つと思いますから」

アートをより身近に、生活の中に。手探りで始まった〝広場づくり〟は、今も熱心に続けられています。
海外のアーティストを小学校に招いてのワークショップもたびたび行っている(©NAKAMURA YUTA)unai12創造性を育むためにアートは必要です。

(新報生活マガジンうない 2020年1-2月より転載)