「出来る」ことと「やっていい」ことは違う~事件・事故の撮影~ モバプリの知っ得![107]


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※この記事では、「人が亡くなること」に関して言及します。こうした話題に嫌な思い出がある方、気分が落ち込みがちな方などは無理して読まないでください。

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今月6日、ツイッターで多く投稿された言葉「トレンドワード」に、一時「首吊り自殺」が入りました。自殺現場の写真がツイッター上に投稿され、拡散されたからです。

実際、こうした「事件・事故」現場の生々しい写真がSNSに投稿されることは残念ながら珍しくはありません。

しかし、「事件・事故」の映像を拡散させてはいけません。このような場合、ツイートを目にした人にしてほしいことは「拡散」ではなく、粛々とSNSの運営会社へ「報告・通報」し、対処してもらうことです。

トレンド1位の影響力

ツイッターには「トレンド」という機能があります。ツイッター上で多く投稿されている「言葉」をピックアップするものです。日本のトレンド、世界のトレンドなどがあり、スポーツの世界大会などがテレビ中継されていると「ラグビー日本代表」などの言葉がトレンド入りします。

1月6日、「首吊り自殺」という言葉が日本のトレンドに入りました。

それは同日午後、都内の歩道橋で自ら命を絶った男性の画像を撮影し、ツイッターへ投稿した人がいたからです。この投稿に対し、「こうした画像は投稿してはいけない」と否定的な文脈で投稿した人も多くいました。しかし皮肉なことに、「否定的な指摘だったとしても」、言及する人が増えることがトレンド入りを後押ししたという側面もありました。あらためて対応の難しさを感じます。

ツイッターでは、基本的に自分が「フォロー」した人の投稿が、画面上に表示されます。
そのため、人によって見ている投稿はかなり違いがあります。

しかし、トレンド入りをすることで多くの人の目に入ります。

多くの人が目にし、言及することで、さらに多くの人の目に入る。そしてトレンド入りが続く。
ツイッターの「トレンド」はある種の「バンドワゴン効果」(ある選択肢を多くの人が選択している現象が、さらにその選択肢を選択する者を増やす)を発生させます。

それにより、ショッキングな「自死」の話題、そして画像を多くの人が目にすることになりました。

「出来ること」は「やっていいこと」ではない

私たちが手にしているスマートフォンのカメラはすごく高性能です。
高画質で鮮明に撮影ができますし、ストレージに空きがあれば連続で長時間の動画撮影も可能。最近では、「高倍率ズーム」に対応し、遠くの被写体もクリアに撮影できる機種も出てきました。

そうした状況から、現在は誰もが「スクープカメラマン」になる可能性がありますし、撮影した画像・映像をSNSに投稿すると、すぐに「スクープメディア」になることもできます。

ここで考えたいのは、技術的に「出来る」ことと「やってもいい」ことは異なるということです。

いつでも、どこでも、どんな場面でも、「撮影」する事は出来ますが、事件や事故現場で、被害にあった方や亡くなられた方の様子を許可なく撮影することは倫理的に問題があります。

通常、生きている人間には「肖像権」や「プライバシー権」があるため、勝手に写真を撮影することは権利侵害に当たります。しかし、人は亡くなると様々な権利が消滅するため、勝手に撮影されても、「肖像権の侵害」には当たりません。

そのため、亡くなられた方を撮影する行為は、モラルやマナーの中で各自が自制しなければいけません。

しかし現実には残念なことに、事件や事故の「現場写真」がSNSに投稿されることは珍しくありません。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

昨年5月、都内で21歳の女性が20歳の男性の腹部を包丁で刺した事件の際は、血だらけで倒れている男性の画像がツイッターで拡散されました。

また、昨年の11月に都内で人身事故が発生した際、現場を覆うブルーシートの中にスマートフォンを入れて撮影をしていた乗客に自制するようJR側がアナウンスするという事案も発生しています。

皆さんも、これから先「事件・事故」現場に遭遇することがあるかもしれません。

その際、野次馬根性で軽々しく撮影を行ってしまわないよう、日頃から「撮ってアップ(公開・共有)することの影響」を意識しておく必要があります。

また、こうした画像を見かけた場合は、SNSの運営会社へ「報告・通報」することが効果的です。多くの「報告・通報」が集まると、投稿したアカウントが凍結、あるいは半強制的な投稿の削除へ進むからです。

影響を広げないためにも、ぜひ「報告・通報」の対応を心がけてください。

自殺をセンセーショナルに扱わない

WHO(世界保健機構)は、「自殺報道の後に自殺が増加する危険性」を指摘しています。
それを受け、「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識」の文書も公開しています。

その中では、自殺報道で「やってはいけないこと」が、以下のように記されています。

“・自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
 ・自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
 ・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
 ・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
 ・センセーショナルな見出しを使わないこと
 ・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと”

自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識
2017年 最新版(WHO/自殺総合対策推進センター)

https://www.mhlw.go.jp/content/000526937.pdf

従来、情報発信は「マスコミ」が中心でしたが、SNS時代になり誰もが情報を発信できるようになりました。そのため、こうしたWHOの文章なども、多くの人が目を通し、意識していく必要があります。

また、自分がSNSで自殺報道などを多く見かけ、体調が優れなくなったら…その場合はスマホをそっと置いて、「情報と距離を取る」ことも大事です。

残念なことに、今後もSNSにこうした「事件・事故」の画像が投稿されることが予想されます。その場合は、余裕があれば「報告・通報」、自分の心が疲れている場合は「距離を置く」ことを心がけてみましょう。

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※今回、このテーマで記事を書くことは悩みました。記事を読んだことによって問題となった投稿を思い出したり、知らなかったのに知ってしまったりなど、嫌な気分になる人が出てしまうのではないか、と迷いました。しかしSNS上で自分の意志とは関係なく自分の望まない投稿を目にしてしまう環境がある現代において、少しでもその「対策」を知ることが自分を守る手段につながるのではないかと考え、記事を書きました。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」1月19日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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