直売所を子育て世代のコミュニティーの場に 宜野湾市 ハッピーモア市場 店長 大湾絵梨子さんの思い 【となりの人となり】


社会
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宜野湾市の住宅街裏手にある農産物直売所「ハッピーモア市場」。
斬新な企画立案でお店を切り盛りする若き店長・大湾絵梨子さんにアイデアの源泉と食へのこだわりをお聞きしました。

(聞き手・田実信之)

大湾絵梨子さん 撮影・屋比久光史

子育て世代に買い物に来てほしいですね。

子育て世代でにぎわう直売所

食の安心・安全の意識が高まるにつれ、農産物直売所の数も増えてきました。宜野湾市志真志にある「ハッピーモア市場」もそのひとつで、目立たない場所ながら大勢のお客さんでにぎわいます。子育て世代の若いお母さんが目立つのもこのお店の特徴です。

「うちは野菜を作る農家さんやお客さんとのコミュニケーションを重視しています。地域のコミュニティーをつくりたいという思いが第一なんです」

そう語るのは店長の大湾絵梨子さん。ハッピーモア市場は野菜スムージーなど独自商品の展開、飲食店とのコラボなどユニークな販売戦略も特徴で、大湾さんはその仕掛け人でもあります。そんな彼女は意外にもこれまで農業との接点はなく、以前は大阪で靴の仕入れと販売の仕事をしていました。

「仕事はすごく楽しかったのですが、やっぱり沖縄が好きなので24歳の時に帰ってきました。今度は食べ物関係の仕事がしたいと思って、このお店で働くようになったんです」

スタッフのコミュニケーション力も「ハッピーモア市場の」特色。スタッフと会うのを楽しみに来店するお客さんも多いそう

ハッピーモア市場は偶然にも大湾さんの家から近い場所にあり、さっそく訪れてみたところアットホームな雰囲気に一目でほれ込んだそうです。

「お客さんがスタッフに会いにきているって感じがすごく魅力的だったんです。面接で『私もスタッフとしてこのお店を良くしていきたい』と猛烈にアピールしたら、社長もびっくりしていましたよ(笑)」

ちなみに当時の大湾さんは髪形も今と違い、金髪だったとのこと。直売所の店員としては型破りな彼女の、新しいスタートでした。

宜野湾市長田の交差点から車で10分。住宅街の中にある「ハッピーモア市場」

若い人にこそ来て欲しい

野菜を扱うのは初めての経験でしたが、大湾さんは関西で培った販売のノウハウを生かし、ハッピーモア市場を大胆に変革していきました。

「お客さんの目を引くポップ広告を手作りしたり、一流ホテルの接客業を勉強したり…。お客さんに気持ちよく買い物してもらうため、やるべきことはたくさんありました」

野菜や果物の陳列も、商品ディスプレーの講師を招いてクオリティーアップを実現しました。そのノウハウは大湾さんの下で働くスタッフにも受け継がれています。

「仕事が終わってから、ポップを書くための習字の勉強会などをやったりします。スキルアップにつながりますから、みんなとても熱心ですよ」

ハッピーモア市場はカフェやレストランと提携してのイベントを積極的に行っていますが、そうしたアイデアもスタッフから出てくるそうです。

「ベトナム料理のお店と提携して、うちのお野菜を使ったベトナムのサンドイッチをここで販売してもらったり…。私たち自身も楽しんでやっていますね(笑)」

お店のスタッフは多くが30代で、大学生のアルバイトも多く、全体的に若い印象です。それもまた大湾さんが目指した目標のひとつでした。

「ここで働きだした頃、周りから『なぜそんなところで働いてるの』ってよく言われたんです。でも私は、安全な食品の需要がこれからもっと高まるって確信がありました。だから子育て世代に買い物に来てほしいし、若い人にここで働いてほしいってずっと思っていました」

近くに2つの大学があることも手伝って、栄養士や農業を学ぶ学生たちがアルバイトに来ることも多いとか。実地で働きながら学びたい――その志の高さは、かつての大湾さんとも共通する姿勢なのかもしれません。

大湾 絵梨子
おおわん・えりこ

宜野湾市出身。高校卒業と同時に本土に出て栄養士の資格を取り、病院の栄養士として勤務。その後関西で靴のバイヤーとして働き、24歳で帰郷。「ハッピーモア市場」に就職し、店長として仕入れから販売企画を担当。飲食店と提携したイベントなど、直売店の枠を超えた手腕に定評がある。【ハッピーモア市場 TEL: 098-896-0657 】

震災から食への意識が変わりました。

震災を機に意識が変化

無農薬・減農薬という食の安全へのこだわりについて、大湾さんは次のように語ります。

「私が沖縄に戻ったのは東日本大震災から間もない時期で、お客さんの中にも沖縄に移住してきた方が多くいました。皆さん放射能や農薬にすごく気を使っていて、それで私たちも『これから食への意識が変わってくる』と強く感じたんです」

健康志向の高まりも相まって、ハッピーモア市場は子育て世代の客層をつかみました。お客さんの子どもたちの中には、幼い頃からここの野菜を食べて育った子も少なくありません。特に名物商品の野菜スムージーは、子どもたちの大好物なのだとか。

「子どもたちがスムージーを飲みたくて『お母さん、ハッピーモア行こう』って誘ってくれるんですよ」と大湾さん。世代を超えてお客さんをつかんでいることがよく分かるエピソードです。子育て世代のコミュニティーでありたい――。大湾さんのその目標は、この地域で着実に実現しつつあります。

京都のだし製造販売の老舗「京・東寺うね乃」の講師を招き、離乳食用のだしセミナーを開催(写真提供・ハッピーモア)

(新報生活マガジンうない 2020年5-6月より転載)