今、できることに全力投球!ー本村ひろみの時代のアイコン(36) あさお よう(絵本作家)


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「小さい頃は兄の後をついていくような少年でした」
幼い頃の話を伺うと2歳年上のお兄さんの話を始めた、あさお ようさん。
2020年4月に出版された新作絵本『じごくのさんりんしゃ』という名前は、あさおさんのお兄さんが5歳の時に初めて作ったお話の名前にちなんでいる。内容は忘れていたそうだが、このタイトルが子ども心に強烈に残っていたようだ。あさおさんの絵本の物語は「母親に買ってもらった三輪車“じごくのさんりんしゃ”に乗ると普段の街が地獄に変わる」というストーリー。後に、お兄さんが作った物語を父親に確認すると「“さんりんしゃ”という子どもが登場する内容」だったそうだ。それもまたシュールで面白い。父親はその物語を大切に保管していた。子どもの自由な発想を大切に育む家庭環境であさおさんは育った。父親は心理学者として活躍する麻生武(あさおたけし)氏。母親は日本語教師。そして兄はデザインアワードも受賞したクリエイターの麻生遊(あさおゆう)氏。あさお家の次男・ようさんは、絵本作家の道を歩み始めた。

「もののけ姫」の世界を夢見て沖縄へ…

あさおさんは1984年、京都生まれの奈良育ち。
アニメ「境界の彼方」でも舞台となったニュータウンで育った。虫や生き物が大好きで3歳から絵を描いていた。絵を本格的に習い始めたのは小学校1年生の時から。中学3年生まで絵の教室に通って絵の描き方を学んだそうだ。沖縄県立芸術大学へ進学しようと思ったのは、深夜のテレビ番組で西表島の映像が流れてきたのを見たことがきっかけだった。当時好きだった「もののけ姫」の世界がココにある!と夢みて沖縄行きを決意。沖縄へ来てみると想像以上に本島は都会だったので驚いたそうだ。予備校も那覇造形美術学院で学び、沖縄県立芸術大学に入学してから絵画の本格的な活動が始まった。

柔軟な画風

私から見た“あさおよう”は、変化を楽しんでいる作家という印象。彼のインスタグラムにはこれまでの作品が投稿されているのだが、時系列でなく投稿されていて、ホームで全ての作品を一同に見た時、なんだか楽しげに見える。大学在学中の作品は、重いテーマや落ち着いた画風もあるのだが、ある時期から明るい色彩に満ちあふれている。
どれも“あさおよう”の世界。人の性格を“明るい”とか“暗い”とか単純に決められないのと同様に、どの世界もあさおさんの内面から生まれてきたもの。自由な表現・スタイルの幅の広さは、あさおさんの作家としての強みであり、それは才能なのだ。

『いたずらちゃっきー』より

表現方法を模索

卒業制作では絵画、立体、映像と3つの作品を制作した。

絵画『ミュラーの夢を乗せて』(Take Muller’s dream)180cm×180cm ペンキ・墨汁・廃材
立体作品『盲目の月』(Blind moon)熊の剥製・鳥の羽・鈴

大学3、4年の頃は「アール・ブリュット(正規の芸術教育を受けていない人が生み出すアート)」に夢中になり、特にハイリンヒ・アントン・ミュラーやアドルフ・ヴェルフリに傾倒した。異なる表現で三つの作品を卒業制作とした。一つを制作する事も大変な作業なのだが、あさおさんの熱量はそれを超えていく。

大学を卒業した時点で「ただ人に気に入られるためだけの絵は描きたくない」との思いから表現を写真に変えた。ちょうど子どもも生まれ、写真家として撮った作品には温かさもにじみ出ている。生活のため図書館司書の資格も取得して繁多川図書館や沖縄大学で図書館司書としての仕事も始めた。そんな矢先、再び新しい道が開けた。それが絵本だ。

沖縄生まれの新キャラを生み出す

2012年、図書館司書をしながら参加したグループ作品展に展示した絵画『スキタイの羊』などの作品を見た知人から「絵本を書いてみてはどうか?」と提案された。絵本は好きでも文章やストーリーは考えたこともなかったあさおさんは、そこから本格的に悩みながらも絵本を描き始めた。

『スキタイの羊』

『ふくろうさん買い物をする』(油絵)を描いた時に「ここから物語が広がりそう!」と直感。その後、絵本『フクロウとうさん カレーをつくる』を制作。シリーズ化して『フクロウとうさん つりをする』、他にも絵本『いたずらちゃっきー』など次々とキャラクターを生み出し絵本を作り出し始めた。

『ふくろうさん買い物をする』
『フクロウとうさん カレーをつくる』より
『フクロウとうさん つりをする』より

そして制作した絵本はコンペに応募し、念願かなって2018年、『トカゲのともだち』で第9回日本童画大賞絵本部門大賞を受賞した。受賞作はフレーベル館から出版された。かわいらしいトカゲのキャラクターと少年との交流。誰もが共感する心温まるストーリー。立て続けに、今年4月、第2段の絵本『じごくのさんりんしゃ』を出版した。

『トカゲのともだち』

流れに乗った相次ぐ出版だったが、4月10日の発売は、折しもコロナ禍の真っただ中。販売も大変だったそうだ。9月になり「やっとこれから書店員さんや書店ともコミュニケーションができる」とあさおさんは笑顔で語ってくれた。たくさんの子どもたちが喜ぶ絵本を作りたい、みんなが手に取って読んでくれる作品を作りたい。絵本作家あさおさんはまさに今、動き始めた。

ぜひ皆さんも書店で絵本を手に取ってください!
そしていつの日か、あさおさんが絵本界に新しいキャラクターを生み出してくれるといいなぁと切に願っている。
沖縄生まれの新キャラクター。期待しています!

【あさお よう(アサオ ヨウ)プロフィール】

あさお よう(アサオ ヨウ)

沖縄県立芸術大学絵画専攻卒業。
絵本『ゆめをみる』が第32回日産 童話と絵本のグランプリ佳作。
絵本『じごくのさんりんしゃ』が有田川絵本コンクール2017優秀賞を受賞。
第9回日本童画大賞絵本部門大賞受賞。
受賞作品『トカゲのともだち』でフレーベル館からデビュー。
2作目『じごくのさんりんしゃ』も同社より発売中。

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『じごくのさんりんしゃ原画展』 開催
 2020 11.14〜12.27
 和歌山県 ちいさな駅美術館にて
 入場無料
 

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。