絵一本で生きていく未来を夢見てー本村ひろみの時代のアイコン(39) REIMI(イラストレーター)


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絵が上手な人はどうやって描いているのだろう。これは昔からの疑問。

美大受験の予備校で、初めて鉛筆デッサンで石膏像を描いた時のこと。髪の毛がクルクル巻かれた古代ローマ人や、肩からドレープの流れる衣装を着た人物、馬の頭部の石膏像。白い像を芯の硬さの違う何種類かの鉛筆を使い分けて描く。輪郭を取ろうにも私は子どものような線しか描けず形も取れない。描けば描くほど全体のバランスが狂っていった。いったいどんな風に描けばいいのか分からず呆然としている私の隣の席では、男子学生が木炭を使って光と影で浮かび上がるような石膏像を描いていた。迷いのない美しい手の動きで。

例えば学生時代、友人がノートの空白に描いた先生の似顔絵を見て感心したり、何気ない街角の落書きに目がとまったりした経験はありませんか?
簡単にササッと描いているようで、実はこの線を描けるまでには技術習得の努力の過程がある。積み重ねで完成度が上がる。あたりまえのことですが、忘れがちなこと。

卓球少女が絵に目覚めたきっかけは…

「私だけの海」  夜、ひとりぼっちでいることの寂しさと心地よさを描いた作品

REIMIさんのイラストは、彼女がドイツ留学中に投稿していたツイッターで初めて見た。やわらかい色調で世界観のある絵。取材を申し込み、初めてお会いしたREIMIさんは彼女の描く物語の中から現れてきたような雰囲気だった。
絵を好きになったのは中学1年生の時、同級生が趣味のパソコンで絵を描いているのを見て「これは自分にも描ける」と思ってやってみたら難しかったのがきっかけ。なかなか上手く描けずそこから毎日特訓の日々。パソコンで描いたり、水彩画だったり色鉛筆を使ったりと身近な画材で自己流のトレーニングが始まった。卓球部で動いているボールをすくう作業が好きだったREIMIさんは次第に絵の方に関心が移っていった。それからは好きなキャラクターを描いてはネットの掲示板上に発表したりして、イラスト好きの仲間が増えていった。

高校時代、京都の大学でイラストを学びたいと希望していたところ、通い始めた美大専門の予備校(那覇造形・美術学院)で沖縄県立芸術大学の存在を知る。その時から「将来、絵一本で仕事ができれば」と決意を新たに、県芸のデザイン科にむけて受験勉強に取り組み始めた。

「不思議ちゃん」が見つけた居場所

高校時代は「不思議ちゃん」と呼ばれる空想好きの少女だったREIMIさん。大学では「今日の空気、すごくイイ!」がわかりあえるたくさんの仲間に出会えた。一緒に共感できる友人がまわりにいる環境は制作にも影響した。

大学に入ってから、立体や空間表現、背景を描いたり光を工夫してみたりとそれまであまり意識していなかった表現も学んだ。REIMIさんが進学したデザイン科は一般的に作品で問題を解決する事を目的とする。そのなかで、彼女は自分のイラストもオリジナリティを磨いていった。例えばイラストの人物の目の表現も彼女なりの変遷があるそうだ。

(左)大人らしく女性らしくを強要されることへの戸惑いを描いた作品 (中央)「避難所」  むかし飼っていた金魚に会いに来る少女の物語を描いた作品 (右)「博士の部屋」  植物博士が眠っているあいだに植物の話をきかせてくれる妖精の物語を描いた作品
「そこに、彼らは生きている。」 森の中に住んでいる奇妙な生き物と少女との交流を描いた作品

2019年3月から2020年2月までドイツ・ブレーメンのブレーメン芸術大学へ留学。1年間、絵画をはじめイラストや人体デッサンを学んだ。ドイツ留学中は温かい人々との出会いもあり、それまでの人とのコミュニケーションについても考えるきっかけになったそうだ。その1年間に描いたイラストは、通りで出会ったおばあさんや犬、美しい紅葉のシーン、ショーウィンドウなど充実したドイツでの日々がうかがえる。

(左)「朝の香り」 朝の散歩時に毎朝すれ違って笑顔を交わすだけの関係のおばあさんがいた。その人との時間が穏やかでとても好きだったので描いた作品 (右)「それはまるで生きてるみたいに、」  ドイツはショーウィンドウにこだわりがみられてとても面白い。マネキンたちが暗がりでこっそり生きていたらいいな、と想像して描いた絵

SNSで「可愛い!」と話題に

REIMIさんの食べ物シリーズは食欲をそそる。

お好み焼きの具材がお好み焼きをみつめているという少しダークな遊び心を入れてみた作品

絵日記でお菓子を描きはじめたら楽しくなってシリーズになった。お菓子を食べた時のあの幸福感や楽しさが伝わってくるイラスト。

食べたい!と思ってもらえるように描いた作品

今年5月に初めて食べたフルーツサンドが美味しくてそれを動くイチゴで描いてアニメーションに。ツイッターに投稿したらそれが「可愛い!」と話題になった。

大学院の修了作品は「イチゴちゃんシリーズ」。どんな作品になるのか今から楽しみだ。好きなものをどのように描き、どうやって魅力的に伝えられるか、そんな思いで絵を綴るREIMIワールドは愛にあふれている。

【新垣玲実(あらかきれいみ)プロフィール】

新垣玲実(あらかきれいみ)

沖縄県出身。沖縄県立芸術大学大学院デザイン専修在学。フリーでイラストやアニメーションのお仕事をしたり、美術の先生として子供たちと関わっています。作品を見た人がほっこりあたたかい気持ちになってくれたらいいなと思いながら制作しています。

<主な受賞歴・上映歴>
沖縄デジタル映像祭2016最優秀賞、地域発デジタルコンテンツ総務大臣奨励賞、不動産鑑定士PRコンテスト優秀賞、栗屋大賞イラスト部門優秀賞、第10回こどもアニメーションフェスティバル審査員特別賞、グループ展 そのほかそのほかそのほか展、学生CGコンテスト ノミネート、ISCA2017入選、ASIAGRAPH2018第二部門 優秀賞、ASIAGRAPH2017第三部門 最優秀賞、初個展なんてパンだ展、2人展ツムリテン、キネコ国際映画祭Bプログラム上映、KINO-VISON2019上映、Ars Electronica 上映
お仕事募集しています!

【Web】https://reimi.pb.gallery
【Instagram】https://instagram.com/reitdemi/

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。