鞄にはいつも描きかけのドローイング、日々を積み重ねることの大切さー本村ひろみの時代のアイコン(40) 長田哲(画家)

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蛍光色の黄色や明るいサーモンオレンジ、ピンク、目の覚める赤に鮮やかなブルー。そして流れるようなラインで描かれたモチーフ。記憶がフラッシュバックする。長田哲さんの絵に出会った時、かつて体験した音楽空間が私の中に甦った。長田さんの色彩が思い出のページを開く。


MIDNIGHT SISTERS(2018年-2020年)

いつの間にかライブ空間のなかに私は立っていた。色彩と自由な線から奏でられるハーモニー。その絵に心が踊った。



画材も描き方も自由


BEAT BOX KIDS(2008年-2020年)

 長田さんは作品をキャンバス(布)に描くのではなく紙に描いている。「(自画像の絵の)この面は、この筆で描いているんです」と見せてくれた筆は、日本画で使われるような毛先が平たく丸くなっている「たたき筆」。糊を混ぜた水彩絵の具を使って絵を描く時は、彼はこの筆で色を落とし込む。

「じゃ、この鉛筆の線はあとで描くんですか」と聞くと、細かく制作の流れを説明してくれた。ぬけ感のあるモチーフの線はまるでジャンプしているかのよう、と私が言うと「80年代のテレビゲームの影響もあって、ゲームの画面のなかのキャラクターが動く線とか」と笑った。


NEW DAWN AFTER CHAOS(2003年-2020年)

MAKE IT VISIBLE VARIATIONS(2020年)

色は水彩で描いてから、色鉛筆やクレヨンで描きこんでいく。描いてからこの色ではないと感じたら、その色を削って改めて色をのせる。長田さんは画材も描き方も自由だ。鉛筆で描かれたコラージュのような部分について尋ねると、鞄から大切そうに素朴な印象のドローイング(下絵やデッサン)を取り出して見せてくれた。

ハガキくらいの灰色の紙。いつも持ち歩いて思いついた時にデッサンをしているそうだ。長田さんの描き方は、作品をすぐには完成させず、様々な作品がつねに同時並行しているのだという。それなので途中で止まっている絵もある。だから作品の後ろには、それを描いた日付と使用した色の名前を記しておくそうだ。それはまるで絵の中に日々が積み重なっていくように。


作品の裏に記した日時

絵の中に絵を内在

そんな制作方法から生まれた実験的な試みは、個展にも反映される。
来年春に予定されている個展「TIME LEAP WORKS」。この個展で展示される作品は、新しい絵に過去の絵のイメージをコラージュするように描いている。再び命を吹き込まれた過去の絵画たちのことを「絵の中に絵を内在させるんです」と語ってくれた。

長田さんの時をかける作品たち。この個展は今年の春に開催予定だったが、新型コロナウイルスの影響で来年の春に延期となった。時間のなかに内包されたイメージたち。開催までの時間にどんなタイムリープがあるのか興味がつきない。

大学では哲学を学びながら絵を描き続けた。在学中の2002年、村上隆氏が主催する現代美術の祭典「GEISAI」に参加した時、沖縄出身の画家・山城えりかさん(当時女子美術短大在学中)と出会い、2009年に結婚されている。作風は違うけど、同じ作家としてお互いの作品にアドバイスをすることもあるそうだ。

大学卒業後は教員をしながら作品を作り続けていた。2013年に沖縄に移住してからも、その生活は変わらない。平日の早朝、仕事に出かける前に娘と散歩をし、そのあと出勤前の少しの時間でも絵を描く。5分くらいの時間でも毎日「続けること」が大切なのだと話してくれた。



首里城をどう描くか

去年、首里城が焼けてしまった後から描き始めた作品がある。
「SHURI CASTLE SISTERS」


SHURI CASTLE SISTERS(2019年-2020年)

それまでの長田さんの作品に見られるような曲線はかげをひそめ、水平と垂直の線で描かれた首里城。鮮やかな橙色で着彩し、そこには涙のように飛び散った絵の具のドット。幾何学的な線で首里城の荘厳さを表現している。
この幾何学的な線は「鳥居」をテーマにした作品でも見られる。ポップな色彩で抽象的な作品を描く長田さんは、また新しいテーマを見つけたようだ。


NEW DAWN AFTER CHAOS(2019年-2020年)

取材の間、「この絵(ドローイングのこと)をこの作品にこんな風に構成して…」と、制作過程を説明する様子はとても楽しそうで、どこにいても常に自分の世界とグルーヴしているのだと思った。

「自分の世界とグルーヴする」
それって根源的に大切なことですよね。長田さんのポップな色彩を眺めながら、私の頭上からまた音楽が流れ始めた。




【長田哲(おさださとし)プロフィール】


長田哲(おさださとし)

1980年静岡県生まれ、2004年國學院大學文学部哲学科卒業。2013年~沖縄県在住。

<主な展覧会>
2019年 個展「NEW DAWN AFTER CHAOS」沖縄県立博物館・美術館 ミュージアムショップ
2017年 平川恒太との2人展「中間者の情景」ギャラリーアトス(那覇)
2017年 個展「Floating Heads」ヨロコビto Gallery(西荻窪)
2015年 「ニセ・ザ・チョイス」ビリケンギャラリー(南青山)
2013年 個展「重畳するミクロコスモス 」GALLERY MoMo Projects(六本木)
2009年 個展「Microcosmic Chaos」FARM by hiromiyoshii(清澄)
2006年 「第26回グラフィックアートひとつぼ展」入選、ガーディアン・ガーデン(銀座)
2003年 「電子音楽の世界」TKGY at lammfromm(代々木)

<告知>
2020年春に予定していた東京西荻窪のヨロコビto ギャラリーでの個展『TIME LEAP WORKS』を新型コロナウイルス感染防止のため延期し、2021年春に開催予定。期日は、下記ウェブサイトにてお知らせします。

【Web】http://www.satoshiosada.com




【筆者プロフィール】


本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。



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