鉄板が錆びるまで時をおく。植物を育てる気持ちで作品を育てているー本村ひろみの時代のアイコン(41) 金城徹(美術家・沖縄県立芸術大学助教)


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金城徹の作品を表現する言葉はとても詩的だ。
透明なアクリルのフェンスに舞う鉄の蝶の作品「あなたのたつところ」(2017年)は、沖縄のいたるところに張りめぐらされた鉄の境界線を透明化し、それが意識のなかで「見えなくても存在する」ことを表現している。夏の晴れた日、ふわりと自由にフェンス越しに行き交う蝶の様子を、私たちが「いつか見た風景」のように立ち上がらせる金城の作品はノスタルジーだ。

「あなたのたつところ」(2017年)

彼の作品は力強いイメージを携えて自分のたっている場所を喚起させる。
「ボーダー(境界線)は線ではなく点だと思うんです」
控えめながら力強い口調で金城は言う。
「それは人によっての許容のライン。境界線は人によって違う、それぞれの点を結んだもの」と語った。

金城さんの父は宝飾の職人。母とお弁当を持って父の仕事場に通い、貴金属を加工している父の後ろ姿を見て育った。そんな彼は幼い頃から絵を描くことや、モノづくりが好きな子どもだったそうだ。沖縄県立芸術大学では美術学科・絵画専攻に進学。学部時代から、絵の具の代わりに金属の錆を使って作品を制作している。平面作品では鉄板を錆びさせ、侵食させ、それを重ねていくことで記憶の風景を作り上げた。紙に錆色を定着させ、それを繰り返すことで風化の過程を作品にしている。その赤茶けた錆の濃淡に鑑賞者のイマジネーションは広がる。

硬質な素材も変化しやがて朽ちていく。
永遠なものなど何もないと私たちに気づかせるように。
金城さんの鉄や非鉄金属(真鍮、銅、洋白など)を使った立体はより一層にロマンティックだ。
たとえば、テーブルの上のスプーンからまっすぐ伸びる可憐な花たち。スプーンの柄尻にとまるオオゴマダラ。(Cerealシリーズ、沖縄県立博物館・美術館10周年記念作品)

「このとき」(2014)

真鍮の花の部分に洋白(銅と亜鉛とニッケルから構成される合金)で作った茎。
強固な素材と繊細なモチーフ。
それらを合わせて、時が止まったような“儚い美しさ”漂う空間を作り出している。

移ろう儚さ

卒業制作「還」

「真新しい鉄板を買ってきて、錆びるまで屋外に置くんです。雨水にさらして、磨いたり削ったり切ったりして作品を制作しているんです。まるで植物を育てるように。水をこまめにかけて錆びさせるんです」
金城さんのその制作過程は人々の日常の営みとオーバラップする。

移ろう儚さ。
すべては消える。彼の作品は朽ちてゆくものの存在の証として生き続ける。
金城徹は詩人だと思った。

真鍮(しんちゅう)の花や蝶の作品を見ているうちに、ボリス・ヴィアンの書いた『日々の泡』という小説を思い出した。
肺の中に睡蓮が咲く病のクロエ。美しい幻想の世界。
何気なくそこにある日常を「美」へ昇華する作品。

金城徹にはそんな作品をこれからも期待したい。

【金城徹(きんじょう・とおる)プロフィール】

金城徹(きんじょう・とおる)

1979    沖縄県那覇市生まれ
2006    沖縄県立芸術大学造形芸術研究科絵画専修 修了

〈個展〉
2011.10・2012.10   金城徹展  GARB DOMINGO(沖縄)
2014.1    金城徹展『ここからみえるもの』 画廊沖縄(沖縄)
2017.11   金城徹展『ありふれた日常』 アートスペース羅針盤(東京)
2018.9    金城徹展『Border』 画廊沖縄(沖縄)

〈グループ展〉
2015.6 戦後70年沖縄美術プロジェクトすでぃる REGENERATION浦添プロジェクト 
       社会と芸術 戦後沖縄社会と美術 浦添市美術館(沖縄)
  〃   .8  ワンピース倶楽部vol.8 はじめてかもしれない  3331 Art Chiyoda(東京)
2016.6  すでぃる-Regeneration マブニ・ピースプロジェクト 平和祈念公園
  〃 .12 沖美連展 立体作家招待枠  沖縄県立美術館県民ギャラリー
2017.1   沖縄・モンゴル交流展 STEPPE&OCEAN 2  studio YAKENA1129
  〃   .1   TRANSIT REPUBLIC   Arena 1Gallery(ロサンゼルス)
  〃   .2   金城徹・本村佳奈子二人展 表参道画廊(東京)
  〃   .5   農連市場アート展 那覇市農連市場
 〃  .8   美術の先生が作った作品展 vol.5  沖縄県立美術館県民ギャラリー
2017~2018.2   美術館開館10周年記念展「邂逅の海-交差するリアリズム-」 沖縄県立博物館・美術館
2018.7 「美術の先生が作った作品展vol.6」沖縄県立博物館・美術館 県民ギャラリー
2020.3  VOCA展2019 現代美術の展望
           ─新しい平面の作家たち  上野の森美術館
2020.9 “Identity XVI – My Home? –" curated by Kenichi Kondo nichido contemporary art(東京)

http://www.okigei.ac.jp/outline/teachers/tc-arts/tc-painting/painting-t-kinjo.html

*現在開催中の沖縄アジア国際平和芸術祭2020出展
那覇市民ギャラリーにて12/13(日)15時まで。入場無料

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。