多様で個性的、街への熱に溢れる登場人物が、コザの魅力を増している―セソコマサユキからみた沖縄


社会
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不思議な街コザに魅了された人々がつづる それぞれのストーリー〈3rd〉
 

「実在する不思議な街・沖縄市コザを舞台にした映画!」と銘打った2022年公開予定の映画「10ROOMS」がコザで撮影されています。確かにコザは不思議な魅力を持った街。しかし、その魅力の対象は人それぞれ違います。このコラムは、4つの物語で構成された「10ROOMS」にちなんで、コザの不思議な魅力を4人の筆者それぞれの視点で紹介するリレーコラムです。第3回は編集者のセソコマサユキさんにご登場いただきます。とある人物と出会ったことで、コザに対する思いが大きくなっていく様子をつづっていただきました。

「セソコ」という姓のルーツは沖縄にあるんだけれど、曽祖父が戦争のころに沖縄を出ていて、ぼく自身は神奈川県で生まれ育った。両親も沖縄で暮らした経験がないので、食卓に沖縄料理が並ぶことも、会話の中にウチナーグチが出てくることもなかった。だから、ぼくの意識は「神奈川県民」だった、あたりまえのことだけど。

神奈川で「セソコ」という姓は非常に珍しい。それに、顔だちが沖縄っぽいというか、「濃い」ということもあって、顔を見ては「ハーフ?」と確認されることが多々あって、自分が「ここの人間ではない」といわれているような、どこか疎外感を感じてもいた。

9年ほど前に沖縄に移住してきた。もともと雑誌・書籍の編集やイベントの企画・運営などを生業にしているので、ぼくの目はいつも「取材先」を探しているようなところがある。特に仕事先も決めずに移住してきたので、最初の半年ほどはとっても暇で、とにかく沖縄中をうろうろと巡っていた。気になったカフェ、まだ行ったことのなかった観光地や絶景スポットなど、あらためて沖縄を感じてみたときに、どこに魅力を感じ、なにを伝えたいと思うのか。

移住して1年ほどが経ったころ、ありがたいことに「あたらしい沖縄旅行」という本を出版させていただく機会を得た。移住してから巡った場所のなかで出会ったカフェや作り手、雑貨店などの「物語」を紹介する本だ。その当時のセソコ的「沖縄のベストスポット」というようなラインナップで45店を厳選して取材したんだけれど、そこに「コザ」の店はなかった。その当時のぼくにはきっと、縁がなかったんだろう。

その後、「コザに飲みにいく」という機会は幾度かあったけれど、ぼくとコザの距離感が近づくことはなかった。それが変わったのが嶺井大地くんとの出会いだ。コザでシャルキュトリーの専門店「TESIO」を開くという大地くんに出会い、たとえばイベント出店のお願いに行ったり、買い物に行ったり、取材をさせてもらったりと、時折、昼間のコザに足を運ぶようになる。それでもコザに対する「不穏な」というか「寂れた」というか、そんなネガティブな印象は変わらずにぼくのなかにあった。

TESIOがオープンして、イベントを開催して、人が増えて、通りの景色が少し変わっていくのを感じた。大地くんに「コザに来たなら、ほかにもこんなお店もありますよ」「今度こんなお店がオープンするんですよ」なんて教えてもらっているうちに、コザという街に対して「おもしろそうだな」と、編集者としての興味が湧いてくる。いままでかすみがかっていたコザの街に、TESIOを中心に波紋が広がり色彩が与えてられていくような。

あらためて「コザ」を見てみると、ここでぼくが説明するまでもなく、非常に特異なことがわかる。沖縄、アメリカ、日本。衝突と包摂、清濁混ざり合ったような歴史や文化、それを物語る街並み。ただ維持されていくのでもなく、スクラップ&ビルドでもなく、あたらしいものを受け入れ、変化しているように見える。いつのまにかコザは、取材欲を掻き立てられる「まち」のひとつになっていた。

TESIOのショーケースにはさまざまな種類のソーセージやハムが並ぶ。

2021年の10月、浦添市にある「サンエー浦添西海岸パルコシティ」で、「コザをPOP UP!」というイベントを企画・開催した。「コザがおもしろいんじゃないか」、つまり紹介することで多くの人に楽しんでもらうことができるのではないか、という編集者的な「カン」と、大地くんの「コザ良いっすよ!」という勢いだけで、このイベントは動きだした。

話したその日のうちに大地くんはメモ用紙いっぱいに出店リストを書いてくれた。出店型のイベントをやるとなると、やっぱり大事なのはどれだけの出店者を集められるか、ということになる。「コザ」というひとつの地域に限定したことで、実を言うとその点に少し不安があったのだけれど、そのメモの段階でぼくの胸は高鳴っていた。TESIOはもちろん、パンにロースイーツ、チーズにビール、コーヒーはもちろん、衣料品に靴磨き、映画館に写真館。話を進めるうちにオープン前の店との出会いなんかもあったり、会場の装飾には電気設備の会社から内装会社まで協力してくれたりで、これでもかと言うほどバラエティに富んだ内容になった。

イベントをするとなると、どんなイベントにしていくかというディレクション、つまり舵取りのような作業が肝になると思っているんだけど、この時ばかりはあっという間にぼくの手を離れ、人が人を呼び、熱が熱を呼んで、自走するようにしてコザのイベントが形づくられていった。

サンエー浦添西海岸パルコシティで開催された「コザをPOP UP!」の様子

おもしろかったのは、繋がっていく人がいちいちキャラクターが濃いこと。それぞれに1時間でも2時間でもインタビューしたくなるような物語を感じさせてくれる。そして、誰もがコザをおもしろがっていて、もっとおもしろくしてやろうという熱意を持っていること。

ところで、そもそも「まち」とはなんだろう。ビルが建ち並んでいるとか、交通機関が集中しているとか、そう言うことはきっと表層的なことで、ぼくらがいま語るときの「まち」はもう少し違うニュアンスを含んでいるように思う。そこに、どんな人がいて、どんな営みがあるか、と言うことが重要なのだ。興味を惹かれるのは結局「ひと」だったりする。でも、そういう人たちを集めるのはきっとその場に漂う「楽しめそうな可能性」であって、コザにはそれが、残る建物や文化から、色濃く漂っているのだと思う。

結果として、「コザをPOP UP!」は大いに盛り上がった。サンエー浦添西海岸パルコシティという商業施設のなかに、タイトルの通りコザの街がそのままやってきたような、バラエティ豊かで、クセの強い、楽しい空間ができあがっていた。ひとつの地域の出店で、しかも同じ県内への出店で、これほどたくさんのお客さんを楽しませることができる地域は、ほかになかなかないのではないだろうか。

イベントを通して伝えたのはもちろんコザのほんの一部で、それはもしかしたらほんの表層的なことですらあるかもしかない。でも、それで良いのだ。ぼくは編集者として、「入口」を、「きっかけ」を作ろうとしたのだ。

ぼくが出会ったコザを賑やかす人々の多くは、おそらく外からやってきた人たちで、理由はどうあれいまのコザの一部になることを楽しんでいる。その様子をみていると、帰属であったりルーツみたいなことはもしかしたらささやかなことで、「いま何をしているか、いまどこにいるか」が、その存在にとって大切なことなのだと感じさせてくれる。それは「あなたが関わりたい場所で、力を発揮すれば良い」と、ぼくの背中を押してくれるような気がした。ぼくはいまぼくのいる場所を、「自分の場所」にしていけば良いのだ。

「まち」とはなんだろうか。歴史や文化、町並みはもちろん大切な要素ではあるけれど、結局のところどんな人の集まりなのか、ということなのだと思う。そう考えた時に、ぼくにとってのコザの魅力がグッと増したような気がした。

製作中の映画「10ROOM」も、多くの人にとってコザの入口であり、きっかけになるだろう。それは、どんな魅力の扉を開いてくれるだろうか。どんなメッセージをぼくたちに伝えてくれるだろうか。入口やきっかけは、多ければ多いほど、多角的であれば多角的であるほど良い。見るひとそれぞれに、それぞれの心に響くような刺激を、コザは提供してくれるはずだ。コザに魅了されるひとりの編集者として、映画の公開を楽しみに待ちたい。

セソコマサユキ

編集者。編集チーム「手紙社」にて、書籍の編集、イベントの企画、カフェ、雑貨店の運営に携わったのち、2012年6月に独立し、自身のルーツである沖縄へ移住。紙、web等の媒体を問わず、企画・編集、執筆、写真を通して沖縄の魅力を独自の世界観で表現し、発信している。2021年に「島の装い。プロジェクト」をスタート、5月に「島の装い。展」を開催し、11月豊見城市豊崎に「島の装い。ストア」をオープン。沖縄を楽しむちいさなメディア&コミュニティ「SQUA」主宰。沖縄CLIP編集長。「あたらしい沖縄旅行」、「石垣 宮古 ストーリーのある島旅案内」など著書多数。

 

【2022年公開予定】沖縄市コザを舞台にした映画「10ROOMS」のご支援をお願いします!