靴磨きで幸せと笑顔を SHOESHINE FACTORY代表の革靴磨き専門職人、仲程秀之さん


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人に喜ばれるこの仕事が天職

膝に革靴を置き、丁寧に磨いていく仲程秀之さん。さまざまな手入れ用品を駆使しながら、靴の状態やデザインに合わせて一つずつ工程を踏む=沖縄市中央の一番街 写真・村山望

履けば履くほど、自分の足になじみ、味の出る革靴。お気に入りの一足とあれば、できるだけ長く履き続けたいもの。そのためには定期的なメンテナンスが欠かせない。「SHOESHINE FACTORY(シューシャイン ファクトリー)」代表で、沖縄県内では珍しい革靴磨き専門職人の仲程秀之さん(41)の手に掛かると、汚れやシワの目立つ靴が、見る見る内に光沢と潤いを取り戻す。テーマは「靴をキレイにすることで、日常にささやかな幸せと笑顔を」。顧客の大切な靴を一足一足、丹精込めて磨き上げる。

ニッチなサービスを始めるきっかけは、前職にある。2009年から沖縄市のショッピングセンター「プラザハウス」に勤め、革靴の接客販売スタッフに配属された。当初は「全然興味がなかった」と言うが、販売スキルを上げるため、革靴のブランド、素材、デザインについて専門書などで自ら学んだ。

仲程秀之さん

来店客からよく尋ねられる事柄があった。「お手入れ方法を教えてください」。靴ケア用品の老舗メーカー「コロンブス」(東京)の担当と懇意になり、徐々に知識が増え始める。「俺、靴磨きます。」と題した無料の店頭イベントを開くようになった。

客寄せを目的に始めた取り組みだったが、利用客が「想定以上に、ものすごくありがたがってくれた」。よみがえった靴を「ありがとうございます」と言ってうれしそうに受け取る人、感謝の気持ちから差し入れを持ってきてくれる人。そんな反応を見るにつけ「こんなに喜ばれるんだったら、自分の天職としてやってみてもいいんじゃないか」と一念発起。コザ信用金庫の創業スクールを受け、プラザハウスを退職した翌月17年4月、独立した。

同じ靴は一足もない

一言で革靴と言っても、動物では牛、馬、鹿、ワニなどさまざまな種類の皮がある。当然、男性ものも、女性ものも扱う。さらに同じブランドの同じ製品でも、持ち主の足の形や歩き方によって汚れや形状、シワの入り方は異なる。職人目線では「同じ靴は一足もない」。さまざまなケースに対応できるよう、多彩な色のクリームや各種ワックス、毛質の異なるブラシなどをそろえ、手入れ用品にこだわる。

靴のコンディションやデザインによって工程は常に一律ではないが、まずはホコリや土などの汚れを落とす作業から始める。表面をキレイにしたら、クリームを塗布。潤いを与えることで履き心地が良くなり、柔軟性が出て長持ちする効果もある。最後に布を使いながら指でワックスを均一に塗り、磨きながら光沢を出す。状態によっては1組で数日かかるという作業。一つ一つの工程を丁寧に踏む。

筆者が持参した自前の革靴。磨く前。
磨いた後の光沢の違いは一目瞭然だ

腕一本で人生に寄り添う

開業して5年。個別で依頼を受けるほか、地域の祭りやマルシェスタイルのイベントなどに呼ばれることも多い。意識しているのは「自分の存在を知ってもらう」こと。

用途に応じて使い分けられるように、毛質の異なるブラシをそろえる

「サービス自体を広めることはかなりハードルが高い。でも自分のことを知ってもらえれば『仲程さん面白そうだから、ちょっと磨いてもらおうかな』となる」とさまざまな所に出向いて顔を売る。自宅に工房はあるが、あえて店舗は持たない。

実直に、コツコツと仕事をこなすうち、飲食や音楽、アパレルなど多種多様な業界の知り合いができた。「この人に乗っかれば絶対に面白いことになると確信できるメンバー」が増えてきているという。

20年の夏には、同7月に甚大な豪雨被害を受けた熊本県の人から、泥水に浸かって汚れた革靴を郵送で預かり、再生させて送り返すプロジェクトを知り合いの熊本県出身の起業家と発案。世は既にコロナ禍で「少しでも明るい話題を」と取り組んだが、思いもよらぬ反応もあった。

世界中で愛用される「KIWI(キィウィ)」の靴磨き専用ワックス

ある男性から届けられたお礼の声だ。「ありがとうございます。これで、親戚の身内の葬式に行けます」。全く想定していない言葉だった。「この仕事のやりがいは感じつつ、それ以上の価値のあることは多少できたと思います」

自らの腕一本で、人の人生に寄り添う仲程さん。確かな技術とプライドを宿した革靴磨きの匠に、大切な一足を預けてみてはいかがだろうか。

(長嶺真輝)

靴の色などに応じて使い分けるカラフルな専用クリーム

SHOESHINE FACTORY

革靴1組の平均価格は3千円

TEL 090-8412-1572
https://ssf-okinawa.com/

(2022年6月2日付 週刊レキオ掲載)