アダン葉帽子 「編みたい」思いが原動力 糸数弓子さん


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「編みたい」思いが原動力に

アダン葉帽子を編む糸数弓子さん。アダン葉の収穫から成形まで、全ての工程を1人で行っている。現在はオーダーメードで帽子を製作している=宜野湾市野嵩の自宅作業所 写真・村山望

沖縄に自生しているアダンの葉で作られたアダン葉帽子。1世紀前の沖縄では産業化され、数多くの製造所も存在した。手間暇かけて作られた帽子は、本土の企業を通じて欧米などに輸出されていたものの戦後は衰退。帽子の存在を知った糸数弓子(45)さんは技術を知る人を探し出し、編み方を習得した。製作や講座などを通して、その帽子の技術などを伝えている。

「琉球パナマ帽」とも呼ばれていたアダン葉帽子。かつては欧米などに輸出され、泡盛と黒糖に次ぐ沖縄の3大産業の一つだった。糸数弓子さんは、戦後途絶えかけたその帽子に魅了され、技術を習得した数少ないアダン葉帽子作家だ。

糸数さんがアダン葉帽子の存在を知ったのは11年前。第3子出産後の育休期間中に参加した県内の経営者らによる勉強会でのことだった。小さい頃からもの作りが好きだった糸数さんは「ただ編んでみたいという気持ちがスタートでした」と振り返る。県内の博物館を回り、文献を探し回っているのを見た母から、祖母が「ボウシクマー(帽子を編む人)」だったと聞いた。

伊江島に通い技術を習得

編みたい思いがますます募った糸数さん。「最初に話を聞いた10日後には伊江島に渡っていました」という。伝統の技法を受け継いだ当時79歳の大城ナツさんに会うためだ。連絡先も住所も知らないまま名前だけを頼りにタクシーに乗ると、幸運なことに自宅までたどり着くことができた。何年も前に村のお年寄りから受け継いでほしいと技術のみを習っていた大城さん。編み手としては活動していなかったため、本を参考に思い出しながら教えてくれた。その本は、本土出身の加藤和子さんがアダン葉帽子のことを知り、残しておきたいと編み方を自費出版で発行したもの。本作りを一緒に手伝ったのが大城さんだったという。糸数さんは生後約半年の乳児を抱きかかえ、休日に始発便のフェリーで伊江島に渡り、最終便で帰ってくるという生活を半年間繰り返した。

タカラガイで磨くことで、凹凸がなくなり、つやが出る。タカラガイは糸数さんの祖母が使っていたもの

すべての工程を1人で行っている糸数さん。編み始めるまでの下処理に約1カ月かかるという。アダンの葉を収穫し、葉のトゲを取り除き、湯がいてから丸1日ほどシークヮーサーにつけて漂白。その後、天日干しで乾燥させ、1回水に戻して縦に裁断して糸状にする。そこからようやく編み始めることができるのだ。「作業自体は苦ではなく楽しい。作るまでが大変なので、編むのはごほうびみたいなもの」と話す。糸を使わず、材料は葉だけしか扱っていない。軽くて涼しいのが特徴だ。

アダン葉帽子は1900年初頭に寄留商人の片山徳次郎氏が帽子製造場を設立し、竹細工職人の平安名盛文氏と共に編み方を考案したのをきっかけに、県全域に業者が増えて発展を遂げた。途中からは、安価な代替品の紙燃(こより)が主流となった。沖縄戦でアダンが焼失したり、作り手がいなくなったりして、衰退の一途をたどっていった。

完全に乾く前に、葉の表が内側になるように巻きつける。クセと反対に巻くことで、編むときに真っすぐにしやすくなるという

技術を伝える活動も

木箱や傘の骨など、昔ながらの道具を使用している

糸数さんはアダン葉帽子作りの講師としても活動を行ってきた。大城さんから技術を学んだ5年後には、伊江村教育委員会主催の講座で教える機会にも恵まれた。伊江島の人が熱心に糸数さんの元に通い開催が実現したという。今度は教える側として伊江島に渡り、3年間で4期にわたり講座を実施。60人以上に教えた。「(大城)ナツさんは、本当は伊江島の人たちにやってほしいとずっと言っていたので、恩を返せるいいチャンスだと思いました」。受講生たちは糸数さんが伊江島で受け継いだアダン葉帽子を大事に思ってくれたという。「講座をきっかけに盛んになって、大切に温めてくれました。技術の高い人たちがあちこちで活動し始めていて、どんどんやってほしいと言っています」と発展していくことを願っている。

「いつか沖縄でみんなが普通にかぶる帽子になってくれたら。これからも残っていってほしいです」と語る。受け継がれた技術と思いとともに帽子を編み続けていく。

葉の繊維を裂くカッターは手作り。希望の細さに調節できる

(坂本永通子)


商品などの問い合わせ・注文は糸数さんメールまで
yumiko.itokazu@gmail.com

※その他店舗でも商品の見本展示・注文受け付けあり

りゅう(雑貨店) 読谷村古堅191
TEL 098-989-4643
(9月31日まで休業)

(2022年9月1日付 週刊レキオ掲載)