人と自然が共生する姿に感動
京都で培った近代型染の技法と、紅型に用いられる沖縄の伝統技法を併用した作品制作を続けている染色作家の平井真人さん(72)。現在、名護市済井出の沖縄愛楽園交流会館で開催中の個展「表現する布染 平井真人 YUGAFU2022」では、方言で「平和で豊かな世の中」という意味の世果報(ゆがふ)をテーマとした紅型の作品などを展示している。
神戸出身、大阪育ちの平井真人さんは、京都精華短期大学(現・京都精華大学)で染色を学び、京都で染色家として活動していた。
1973年に八重山諸島を旅し、人と自然が共生していることに感動したという。本格的に来沖したのは78年。京都で求められる染色と、平井さんの染色との間に差を感じ作品づくりに行き詰まっているところ、当時勤務していた専門学校の閉鎖などが重なり沖縄移住を決めた。
沖縄に住み始めた平井さんだが、仕事はすぐには見つからず、離島であるがゆえインフラ整備の進んでいなかった当時の沖縄が抱える厳しさに直面したという。
「そういう中でも沖縄の人たちのたくましさや、豊かな祭りの文化に引きつけられました。高度成長期の中で失われていくものが沖縄には息づいていて、心動かされました」と平井さんは語る。その後、年齢の近い染色家との出会いを通じて紅型の技法を習得。京都で培った染色の技術と、紅型の技法を取り入れた新しい作品を発表するように。
「自分自身との葛藤、自問自答ですよ。自分は何のために染色をしているのかということをよく考えていました」
非戦・共生をテーマに
5枚の巨大な布と一つの布の塊を立体的に配置した「断片(かけら)より」は、阪神淡路大震災の衝撃から生まれた作品だ。
「震災が起こった2カ月後に神戸に行ったら、傾いたビルがそのまま残ってました。高速道路もバーンと倒れていたし、こんなことありえるのかと思いました」
それまでの平井さんの作品は染色した布を額装したり、絵画的な見せ方を主としてきたが、「断片より」はインスタレーション(展示空間そのものを一つの作品としたもの)として完成させた、自身の型を破った作品だったという。
今回の展示に合わせて制作した「蔓草ノ杜 2022」も同様のインスタレーション。ツルのような模様が描かれた布を何枚も組み合わせて形作られた植物のようなオブジェは、名護市のひんぷんガジュマルから着想を得たと話す。
その他にも、広島・長崎・沖縄をテーマとした「ADAN」や、東日本大震災からインスピレーションを受けた「魄haku 2011」など、非戦・共生をテーマに染色技法で描いた作品が多数展示されている。
祈りを込めたものづくり
個展のタイトルにもなっている世果報(ゆがふ)について、平井さんは「平和で豊かな世の中とは、人が暮らすうえでの目標です」と語る。
「思いを込めたものづくりは祈りだと思う。そうすると大事にするし、丁寧に使う。今はすぐに経済効果とかに流れるけれど、作品に自分の祈りを込めること。それは自分にとっても大切なものです」
今後は、これまでの染色の経験を通して、多くの人に手仕事の大切さを知ってほしいという平井さん。生家であるかやぶき屋根の古民家「ゆがふ舎」を活用した展覧会なども視野に入れている。
(元澤一樹)
「表現する布染 平井真人 YUGAFU2022」
日時:~12月18日(日)10:00~17:00
場所:沖縄愛楽園交流会館(月曜・祝日休館)
入館無料
お問い合わせ TEL0980-52-5453
ギャラリートーク「布が語るコト」
11月23日(水)14:00~
平井真人×門野里栄子(大学講師・ポジャギ作家)
(2022年11月3日付 週刊レキオ掲載)