暗号資産取引所が破綻。そこから私たちが学ぶこと モバプリの知っ得[203]


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今月11日、アメリカの暗号資産取引所「FTX」が破綻しました。アメリカのFTX社に暗号資産を預け入れていた顧客は、資産が引き出せなくなるなどの騒ぎが起こりました。

この騒動の全容はまだ明らかになっていませんが、FTXの資産管理がずさんであったことが主な理由でしょう。

投資を含むお金の管理は「この会社は大丈夫だろうか」と信頼できる相手を選ぶ所から始まります。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

しかし、その会社の代表が政治にも強い影響力を持つ、著名なインフルエンサーだったら…。正直、私は信頼できるか、見極められる自信がありません。

事件やトラブル、騒動が発生した後で「ほら見たことか」というのは簡単です。

しかし、発生前から事後を予見することはかなり難しく、今回のFTX破綻で影響を受けなかった方も、いつの日か似たような事案に巻き込まれるかもしれません。

そのために「歴史から学び続ける」必要を感じます。

FTXが破綻した理由

今回破綻したFTX社は暗号資産の取引所でした。

暗号資産とは「仮想通貨」の正式な呼び方です。ビットコインなど、様々な銘柄の通貨があります。

この暗号資産を売買できるのが取引所です。日本にも様々な取引所があります。

2018年には、Coincheck社がハッキングされて顧客の資産が盗まれる事件も発生しました(同社は顧客に補償済み)

暗号資産の取引所、FTXは通貨の売買がとあわせて、顧客の資産を保管するサービスを行っていました。今回明らかになったこととして、FTXは顧客から預かった資産を関連会社へ移行。そしてハイリスク・ハイリターンの商品に投資し、その資産の多くを失っていたとのことです。

こうした資金流用が明るみになり、FTXが破綻になりかけた際にライバル会社の「バイナンス」が買収を持ちかけました。しかし、財務状況を確認したところ「我々の手に負えない」として買収が即中止になったほどでした。

FTX社の日本法人は日本のルールに乗っ取る形で運用していたとのことで、顧客の資産は適切に管理されているとアナウンスしています。

しかし、今回の騒動で暗号資産に対する不安が高まって価値が落ちてしまえば、FTXを利用していないユーザーの資産価値が目減りして悪い影響を受けうる可能性もあります。

原因や責任の全容が明らかになっていないこと、今後の対応がどうなるのか分かっていないことなどこの問題は引き続き注目する必要があります。

大坂なおみ選手や大谷翔平選手も訴えられることに

日本だと馴染みが薄いFTXですが、アメリカでは影響力のあるプロスポーツと関係性が強く、政治への影響力もあり、外見上は「きちんとした会社」と判断していた方も多かったのではないでしょうか。

プロバスケットボールチーム「マイアミ・ヒート」の本拠地のネーミングライツをFTXが購入したため2021年に「FTXアリーナ」となりました。

また、プロテニスプレーヤー大坂なおみ選手、プロ野球の大谷翔平選手なども広告で起用されており、「この選手たちもFTXに加担した」と訴訟される事態となっています。

金融商品にかぎらず、私たちが物を購入したり何かを選択したりする際に、「誰が認めているのか、誰が褒めているのか」をついつい重視してしまいます。

SNSでの口コミであったり、コラボしているブランド・インフルエンサーであったりです。

CEOのサム・バンクマンフリード氏はカリスマ経営者で、政治にも強い影響力を持ち、「信頼できる人」としてメディアに出ていたということも事実です。

事件などが起きたあとで「そうなると思った」と、さも予想できたかのうように分析することを「後知恵バイアス」と呼びます。

今回影響を受けなかった人の中にはこうした「後知恵バイアス」でこの一件を片付ける人もいるかもしれません。

しかしながら、調べれば調べるほど「管理がずさんだったのは間違いないようだが、これを事前に察知して回避できただろうか?」と自信がどんどんと無くなっていく事となりました。

私は、ネット・スマートフォン業界の人間として、例えば新しい会社が新しい製品を発売する際に、関係者の座組や経歴を見てなんとなく「ここは信頼できるな・できないな」という嗅覚が働きます。「土地勘がある」と言ってもいいかもしれません。

(嗅覚だけで「信用できない」などと公言すると侮辱に当たる可能性があるので、自分の心だけに留めておきますが)

土地勘のない場合はなおさら、他者からの評判や印象で決めてしまうことになるかと思います。

今後、オンラインバンキングをはじめ暗号資産など、金融管理の選択肢が増えていき、私たちは複数の企業のお世話になるでしょう。

その際にFTXの轍を踏まないためにも、後知恵バイアスに陥ることがないようこのニュースの成り行きをしっかりと取り込む必要があるでしょう。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」でも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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