いつも何気なく利用している役場や図書館などの公共施設に貴重な美術品が飾られている。野球選手や監督、アーティストのサイン入り色紙も。どのような作品がどういう経緯で飾られているのか―。謎を解くために「公共施設のお宝発見」の旅に出てみた。
<読谷村役場>まるで博物館、一級品ずらり
読谷村は伝統工芸の分野で3人が人間国宝となった人材豊かな村。「やちむんの里」があり、伝統工芸が盛んな村だけに、読谷村役場は「ここは博物館?」と見まがうほど一級品がそろっている。
村役場3階の応接室には、人間国宝の金城次郎さん(1911~2004年)の壺、玉那覇有公さん(1936年~)の紅型が出迎える。もう一人の人間国宝は読谷山花織の与那嶺貞さん(1909~2003年)だ。
金城さんは、72年に那覇市壺屋から読谷村に移り住み、「やちむんの里」の基礎を築いた。与那嶺さんは一時途絶えていた読谷山花織の復興に64年から取り組み、99年に人間国宝となった。玉那覇さんは2001年から読谷村内に工房を構え、制作に励む。
石嶺伝実村長は「伝統工芸の振興は、村づくりの柱としてやってきた。3人は村の誇りでもある」と語る。
応接室には池原ケイ子さんの読谷山花織、琉球ガラスの稲嶺盛吉さんの大皿や花瓶、陶芸家・大嶺實清さんの大型急須、山田真萬さんの大皿なども並ぶ。壁には版画家の名嘉睦稔さんの「飛鳳(ひほう)」がある。
全て読谷在住の作者から寄贈された作品という。「役場のお宝」は、県民も誇れるお宝でもあった。
<県議会>沖縄政治の中心にも…あった!
沖縄の政治の舞台である那覇市泉崎の県議会。議場の周りには、沖縄を代表する画家で陶芸家の與那覇朝大さん(2008年、74歳で死去)が制作した30センチ四方の陶板が46枚飾られている。陶板には鳳凰(ほうおう)やシーサー、龍など異なる図柄、4文字の漢文字の訓示や格言などが描かれている。
県議会事務局によると、県議会落成時に寄せられた陶板で、「絵と漢文字を組み合わせることで、議会にふさわしい重厚さや威厳、沖縄の文化を後世に伝えたい」という與那覇さんの思いが込められているという。
もう一つのお宝は、議長応接室にある5斗のかめだ。県議会が100年の節目を迎えた2009年に、県酒造組合連合会から寄贈された。もちろん古酒が中に入っているが、これまで誰も開けたことはない。
歴代議長は「自分が退任する際に飲んでみたい」と思い描いているようだが、実現していない。
<県立図書館>本の虫たち優しく見守る
12月の那覇市泉崎への移転に向け、作業が進む同市寄宮の県立図書館。1983年に完成した現在の建物は、3月に貸し出し業務を修了した。やましろ記者も小学生の頃、毎週のように通った。
サービスカウンターを抜けると正面に大きな壁画がある。高さ約5.5メートル、幅約3.7メートル。人や街、動植物が縦長の画面全体に、宙に浮いているように描かれている。人々の幸せそうな表情が印象的で、次に何を読もうか、ワクワクして書架の間を歩き回った少年の頃を思い出す。
「読書の楽しさを表現したかった」と話すのは、原画を描いた画家の稲嶺成祚(せいそ)さん。建物が完成した当時の図書館長で高校の同級生だった大城宗清さんに作画を依頼された。空間を固定せず人や静物を描く稲嶺さんの絵の転機にもなった作品だという。
図書館によると、休館前、長年親しんだ壁画を名残惜しそうに眺める利用者の姿が見られた。壁画が壊されるのではないかと心配した人からの問い合わせもあった。建物は図書館移転後、別の施設として活用されるため壁画も残る予定。原画は新館での活用を検討中だという。
少し照明を落とした静かな館の中で、壁画は再び人々が見上げるのを待っているようだった。
<嘉手納町役場>町おこし 音楽でGO!
62歳とは思えない若々しい切れのあるダンスと歌声で幅広い年齢層を魅了する歌手の郷ひろみさん。2016年から嘉手納町の観光大使を務める。郷さんのサイン入り色紙と、新作が出るたびに本人から届くDVDが町役場のお宝。毎月「5」の付く日には、ロビーにあるモニターでDVDを上映する。
郷さんが親しくしている町出身の音楽業界関係者との縁が観光大使就任につながった。嘉手納町が音楽による町おこしに取り組んでいるという話に郷さんが共感し、町にふるさと納税もしたという。
成人式などのほか、2年前に嘉手納高校が甲子園に出場した時にも郷さんからビデオレターが届き、町民は元気をもらった。
當山宏町長は「嘉手納というと、米軍基地の町というイメージが強いと思うが、イメージを払拭(ふっしょく)し、音楽と伝統芸能をアピールしたい」と意気込む。
毎年、町内で開催する「うたの日コンサート」のほか、今年から「かでなGOGOフェスティバル」と郷さんの名前にちなんだ音楽イベントも始めた。「人間的にも素晴らしい方。町民としても誇らしく思う」と當山町長は話し、ビッグアーティストの応援を追い風に、地域の活性化を図る。
息づく「いちゃりばちょーでー」
沖縄にはあらゆる美術家、芸術家がいる。私たちが出身地の地元を愛するように、美術家たちも地元への愛情が深い。それが役場などへの作品寄贈につながっている。横のつながりが強い沖縄の人間関係の影響もあるようだ。ひょんなことから親交を深めた縁が、施設への作品提供などにつながった例もあった。
お宝の背景には、沖縄ならではの郷土愛と、いちゃりばちょーでー(出会えば皆きょうだい)の精神が息づいていた。
(2018年7月29日 琉球新報掲載)