「ソーローメーシ」って知ってますか?【島ネタCHOSA班】


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昨年、仏壇に供えたウンケージューシーのお箸を見た親戚のおばぁに「だぁ、ソーローメーシは?」と聞かれました。そういえば旧盆前のスーパーの店頭で見かけたソーローメーシが何かの植物の茎のようでした。詳しく知りたいです。

(那覇市 シチグヮチ娘さん)

 

ソーローメーシをネットで検索すると、「メドハギ」という植物の茎を用いた精霊箸(先祖の霊のお箸)とあります。詳しく知るには現物を手に入れ、植物研究家に尋ね、旧盆の習慣も見聞したい! ご先祖様の霊に導かれるように調査開始です。

ソーロー草入手

ウンケージューシーにソーロー草の茎のソーローメーシ。箸置きはチガヤ。(ウメーシの置き方は碗の向こう側)写真3点NPO法人あきみよ提供
NPO法人「あきみよ」の棚原洋子理事長。2012年設立から食育・伝統芸能・地域おこしがライフワーク

ソーロー草(メドハギ )探し開始前、調査員は知り合いのNPO法人「あきみよ」の理事長、棚原洋子さん(62)が「プラスチック製のソーローメーシが出回っていた。沖縄の生活文化が壊れるよ」と、憤慨していたのを思い出しました。沖縄の生活に根差した物や事柄の掘り起こしをライフワークとする棚原理事長に今回の調査協力を取り付け、いざ、ソーロー草探しを着手。

棚原理事長のアドバイスで、調査員が向かった先は県中央卸売市場。沖縄協同青果野菜部副調査役の大城正孝さんや仲卸業者富士物産社長の仲田満男さんによれば、「8月5、6日ごろ、本部町伊豆味の農家から山の斜面の自生したソーロー草が入荷する。台風に弱く、毎年入荷量は減少傾向。主要スーパー店頭に並ぶのは旧暦七夕過ぎ」だとか。

それでは掲載に間に合わない、現物は手に入らないと思いきや、仲田社長の計らいで「2、3日後にサンプルが届く」という朗報に胸をなでおろした調査員でした。

かくして旧暦七夕前に入手したソーロー草を持参して、NPO法人「あきみよ」の事務所を訪ねました。そこで待っていたのは、植物社会学が専門のNさん(74)でした。

富士物産社長の仲田満男さん
沖縄協同青果副調査役の大城正孝さん

チガヤと共生

チガヤ草原に生えるマメ科のソーロー草(メドハギ )

「旧盆の頃、故郷の伊是名島ではグソーメーシ(後生のお箸)の草を取りに行くのは子どもの役目だった」と、ソーロー草の原体験を語るNさん。自然観察が常で、昨年は棚原理事長ともどもソーロー草採取でチガヤ草原を歩き回ったとか。

「ソーロー草を採取する目安はチガヤ、ススキがまばらに生えている草原」で、その根拠は、チガヤとマメ科植物ソーロー草との「共生的窒素固定」だといいます。例えばチガヤの家主に、店子(たなこ)のソーロー草の根粒菌(バクテリア)が窒素を供給するメカニズムで、陽光がチガヤの根元に差し込むすき間があれば、なお相性がいいと説きます。

お迎えするご先祖様の霊の足洗いといわれるソーローホーチ(ほうき)。ソーロー草の葉先を束ね、水を張ったおけに浸し玄関先に置く

「そこに、ソーロー草の繁殖を促す助っ人も登場」と、Nさん。チガヤ草原に営巣しやすい小鳥のチンチナー(セッカ)がソーロー草の種子を運ぶ役割を担っているわけです。

ひとしきり植物社会学の話を聞いた後、「ソーロー草が生える条件があって、旧盆に戻ったご先祖様の霊が足を洗ったり、ジューシーに箸をつけたりできるのですね」と、棚原理事長。

地域によって異なるものの、ウンケーのソーローホーチ(精霊ほうき)やソーロメーシなど、旧盆の習慣が継がれていく土壌こそ、チガヤ、ソーロー草、チンチナーの自然の営みなのだと共感した調査員でした。

(2019年8月15日 週刊レキオ掲載)