太陽と海の恵みでマイルドな甘さに 屋我地島・我部集落の塩田が生み出す塩


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よみがえる塩田風景

(左上)株式会社塩田の上地功さんが、塩分を定着させるための砂「カシー」を塩田内にまく様子。(右上)干潟の広大な景色をバックに作業が行われる。 (右下)天日干し後に得られる原料「かん水」を煮詰め、結晶化した塩を取り出すための釜。(左下)かん水を4時間ほど煮詰めると、結晶化した塩が目視できるようになる「塩の花」という現象がおこる。

「塩田」(えんでん)という言葉を聞いて、その風景や塩作りの様子を思い浮かべることができる人はどのくらいいるのだろう。沖縄には、「入浜(いりはま)式製塩法」という独特の製塩技術があり、かつては県内各地の干潟に塩田の設備が築かれていたそうだ。昔ながらの方式で塩田を復元し、塩の生産を行う「株式会社塩田」で、先人たちの知恵と技術を目にした。

生産された塩は「屋我地マース」という名称で道の駅などで販売している。味がまろやかに感じられることから「甘塩」と表現される。天ぷらなどの仕上げに使うと素材の味をうまく引き出してくれるそうだ

9月上旬、最高気温が30度を上回る炎天下の中、潮の引いた干潟の上で黙々と作業を行う人々に出会った。名護市にある屋我地島、我部(がぶ)集落で伝統的な塩作りを再現する株式会社塩田の関係者と提携する一般社団法人フォープレストWillの利用者、支援員の方々だ。

ここで行われているのは、「入浜(いりはま)式製塩法」という方法による塩作り。潮の干満と太陽光から得られる熱を利用するもので、県内ではかつて屋我地島をはじめ、泡瀬干潟周辺や豊見城市の与根集落などで盛んに行われていた。株式会社塩田の社長、上地功さんによると屋我地島で塩作りが行われていたのは昭和35年(1960年)頃まで。その後は安価な塩の輸入により、手間暇がかかる塩作りは次第に廃れていったという。

太陽の力で塩作り

屋我地島の羽地内海に面した海岸線には、石垣や釜のあとなど、塩づくりの痕跡をみつけることができる

入浜式製塩法を行うための塩田は、干潟の一角を岩などで囲い込み盛り土し、周囲に海水を貯水するための溝を掘ることで形成される。海水は満潮時に塩田内部に流入してくる仕組みだ。

塩作りの最初の工程は、干潮の時間帯に塩田の内部に「カシー」と呼ばれる粘着性の高い砂を広げること。最初にスコップを次に長い竹の棒を使い、カシーを塩田の地面に薄く均等に広げていく。その後、カシーは3~4時間かけて天日に干されることとなる。日光と温められた塩田内の地熱で海水が蒸発すると、塩分のみがカシーに付着するのだ。

十分に天日干しされたカシーは、容器にまとめられると海水を使ってろ過する。これにより「かん水」という原材料が得られる。

炎天下の中、カシー集めの作業に励んでいたスタッフの嶺井豊(左)さんと安次富清さん

ここまでの工程は太陽からのエネルギーをフルに活用するものだ。このため、夏季の晴天時に作業を行うことが重要な条件となっている。労働者にとってはかなりハードな環境で、実際に作業する方々は、こまめに休憩を挟み熱中症予防にも気を使わなければいけない。

海水を濃縮したかん水は15~20㌫の塩分濃度となる(通常の海水の塩分濃度は3㌫程度)。このかん水を大きな釜で煮詰め、水分を蒸発させることで、結晶化した塩を取り出す。釜から取り出した塩はそこで完成ではなく2カ月程度、布に包んで乾燥させる。塩の結晶内に含まれるニガリが抜けることで、マイルドな甘みを持った「屋我地マース」となるのだ。

暮らしの記憶伝える施設に

株式会社塩田の社長、上地功さん

「雨が降れば、天日干ししているカシーはダメになる。昔の塩の生産者は毎日天気を心配しながら生活を送っていました」「冬の時季は三日三晩、釜で塩焚きをすることもありました。塩は数少ない換金作物だったんです」

屋我地島で生まれ育った上地さんが、幼い頃に過ごした塩田の様子を思い出しながら語ってくれた。単に「塩づくりをしていた」という言葉ではまとめることのできない、人々の暮らしの記憶がそこには含まれている。一度は途絶えてしまった塩田を会社化し、復活させたのは、地域に伝わる技術や文化を伝えたい、という思いがあったためだ。

今後は体験プログラムとして塩作りの製法を伝えていきたい、と展望する上地さん。屋我地島を訪れる際は、海岸に積まれた石垣から、塩田のなごりと昔の人々の生活の記憶を探してみてほしい。

(津波典泰)

株式会社 塩田
名護市我部701 (マップはこちら
☎︎ 0980-51-4030

一般社団法人 フォープレストWill
名護市大北4-23-6 (マップはこちら
☎︎ 0980-54-2755
※「屋我地マース」購入に関するお問い合わせはこちらへ

(2019年9月19日付 週刊レキオ掲載)