根太く、根強く、たくましく生きる樹木


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地方部記者が担当地域のイチオシを紹介する「J(地元)☆1グランプリ」で、今回紹介するのは「頑張る樹木」です。意外な所から芽吹く木や、沖縄戦の戦禍を乗り越え、100年以上たたずむ木、外国より導入された種子から育った木など、それぞれたくましく生きる樹木を紹介します。

新型コロナウイルス感染拡大で外出自粛が再び呼び掛けられる中、根太く、根強く生きる樹木から、生きるパワーをもらいませんか。

アフリカバオバブ ★ 海洋博熱帯ドリームセンター

アフリカバオバブの木(国営沖縄記念公園熱帯ドリームセンター提供)

プレビュー 40年で高さ10メートルに

本部町の沖縄海洋博公園内の熱帯ドリームセンターには、アフリカからやって来たアフリカバオバブの木がある。サハラ以南のアフリカとマダガスカルの西部、北部に分布する落葉高木で、現地では幹の直径が10メートルを超す木もある。

熱帯ドリームセンターでは1979年に、職員がインドからバオバブの種子を導入し圃場(ほじょう)で栽培を始めた。その後成長し、84年にセンターの露地に移植された木は、98年に国内で初めて花を咲かせた。現在、木の高さは約10メートルになる。

7月20日に熱帯ドリームセンターで撮影されたアフリカバオバブの花(国営沖縄記念公園熱帯ドリームセンター提供)

沖縄の気候が適していることもあり、栽培は容易だが、花をつけるようになるまで時間を要するという。センターでは、初開花から22年の間に11回の開花が記録されたが、台風の影響で幹が折れたり、傾いて根が切れたりしたことで6、7年にわたって開花が途切れた時期もあった。

しかし今年7月、2本の木が9個のつぼみをつけ、そのうちの一つが無事に花開いた。花の大きさは15センチほどで白く、クラゲのような形をしている。残りのつぼみが今後いつ花開くか期待されている。

本土の植物園でも見られるアフリカバオバブだが、温室外での露地栽培は沖縄だけ。約40年の間に小さな種から大きく育ち、台風という“逆境”にも負けず、力強く花を咲かせる。 (下地陽南乃)

マングローブ ★ 宜野湾・北谷境の水路

埋め立て地に造られた水路で育つマングローブ。よく見られるメヒルギで、子どもの木がたくさん生えている=7月30日、宜野湾市伊佐と北谷町北前の境目

プレビュー 人知れず命つなぐ

宜野湾市伊佐と北谷町北前の境目にある水路に、約30本のマングローブが人知れず根を張っている。伊佐や北前の歴代自治会長に尋ねても詳細は不明で謎だった。周辺はかつて海だった埋め立て地で、海岸から数百メートル離れた場所にある。満潮時には海水が入り、大雨時は米軍キャンプ瑞慶覧側から雨水が流れ込む。わずかに土砂がたまる地点で、命をつなぐ。

琉球大学農学部の亀山統一(のりかず)助教(森林保護学)によると、このマングローブはメヒルギが主でヤエヤマヒルギが1本混じる。「都市化した現代沖縄の、新しいふるさとの風景と言えるかも」と評す。マングローブがあると魚や貝などが増え「川の生態系は豊かになる」と変化を期待する。

地域住民から、伊佐に約35年住んだ男性(61)が植えたという情報を得た。連絡が取れた男性によると、十数年前に沖縄市や恩納村の海岸で拾った約千個の種を植えたという。自然が好きで海岸周辺をよく清掃していた男性は「緑があった方がいいと思った」と振り返った。

一方で木の根元には釣り針や浮き、ビニール袋が絡まり、水路にはビニール袋いっぱいの生ごみが捨てられていた。ごみをポイ捨てする人間の道徳心についても考えさせられた。 (金良孝矢)

大アカギ ★ 南城市知念久手堅

雄々しくそびえ立つ「久手堅の大アカギ」=5日、南城市知念久手堅

プレビュー 戦災を免れた大木

世界遺産「斎場御嶽(せいふぁーうたき)」がある南城市知念久手堅。神々しさが漂う聖地の近くに緑深い「久手堅の大アカギ」がたたずむ。

大アカギは集落の北側にある。「上ヌカー」や「根人田跡」など、集落にとって重要な場所に存在し、高さ14メートル以上にも及ぶ3本の太い幹が地面近くで結合し、雄々しくそびえ立つ市指定天然記念物だ。

南城市の資料によると、天然記念物に指定されたのは旧知念村時代の1999年3月。百数十年前、首里城の改修工事の際に切り倒され、献上され、その切り株から芽吹いたものが今育ったアカギと言われている。戦災を免れ、貴重な自然遺産としても価値があり、指定された。

天然記念物指定に尽力したのは、久手堅出身で知念村文化財保護審議会会長を務めた故・新垣源勇さん。新里善和区長は「源勇先生はよく地元の人に『区にとって大切な木だから守ろう』と言っていた。今では区の財産になっている」と誇らしげに語った。

今年、沖縄島各地のアカギにヨコバイ科の虫付着し被害をもたらしている。国指定天然記念物である「首里金城の大アカギ」などが被害に遭う中、「久手堅の大アカギ」には現時点では確認されていない。ヨコバイも寄せ付けないような青々とした木の葉が太陽の光を浴び、きらきらと輝いていた。 (金城実倫)

ガジュマル ★ 宮古島市・石垣市

宮古島市の中心部で市民を見守るガジュマル=5日、宮古島市平良西里
折れたヤエヤマヤシの先端で育つガジュマル=7月29日、石垣市登野城

プレビュー 守り守られ、住民と成長

【宮古島・石垣】枝から無数の気根を出し、成長を続けるガジュマル。県内では木の精霊「キジムナー」のすみかともいわれ、神木として大切にされている木でもある。生命力が強いのも特徴の一つで、市街地や庭先などで巨木を見つけ「こんな所に!」と、その“頑張り”に驚かされることも多い。

宮古島市平良西里のまてぃだ通り。市役所や裁判所などが立ち並ぶ市の中心部に高さ約25メートルのガジュマルがある。神木として地域の人々に守られ、地域の人々を見守ってきた。

通勤でまてぃだ通りを利用する砂川広美さん(56)は「あの大きな姿を見るとほっとする。見守ってくれている気がする」と話す。

一方、巨木を目指し頑張るガジュマルもいる。石垣市浄水場近くの県道沿いには、折れたヤエヤマヤシの先端からガジュマルが生えた。成長途中の“赤ちゃんガジュマル”は、遠目に見るとニンジンのようなシルエットだ。

植物に詳しい松島昭司さん(70)=同市=は「ガジュマルはいろんなところで成長するが、ヤシの上に生えるのは珍しいのでは」と話す。鳥がヤシの上に種を運んできたのではないかと推測する。「聖火台の上で炎が燃えているようにも見えるね」と笑った。 (佐野真慈、大嶺雅俊)


それぞれたくましく

連日30度以上の真夏日の沖縄。ただでさえ暑いのに、今年は新型コロナの影響で、マスクも手放せません。日中歩く時は日傘が欠かせないし、赤信号やバス停で立ち止まる時は、必ず木陰を探します。日なたと日陰の温度差は全く違い、日陰は風が通ります。

今回登場した樹木は、育ちも環境も全く異なりますが、それぞれたくましく生きています。人間が手を入れなくても、時に台風の被害を受けようとも、へこたれずに育つ樹木。約2カ月前、街路樹のアカギがヨコバイという虫が原因で落葉しましたが、徐々に回復しています。木陰で涼みながら、ウイルスに悩まされる中、樹木のたくましさを見習いたいと思いました。

(亜)

(2020年8月9日 琉球新報掲載)