HY Kafuu(カフー)のある年を願って


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沖縄から幸せや愛を届けたい

【右から】名嘉俊さん(ドラム)、新里英之さん(ボーカル・ギター)、仲宗根泉さん(キーボード・ボーカル)、許田信介さん(ベース) 撮影協力・デポアイランド 写真・喜瀬守昭

 沖縄県うるま市東屋慶名の地で結成され、日本の音楽シーンの第一線で活躍するHY。全国的に有名になった現在も、メンバー全員が沖縄に居住し、地域に根差した音楽を発信している。昨年は新アルバムを発表し、新年もフェス開催など話題の絶えない4人。インタビューを通して、沖縄愛にあふれ、多くの人に親しまれる彼らの魅力に迫った。

―HYにとって2022年はどんな年でしたか?

新里 2022年の大きな出来事は、コロナ禍で延期になっていた『HANAEMI』ツアーがやれたこと、そしてアルバム『Kafuu』をリリースしたことですね。ツアーは動員制限がかかってお客さんが半分しか入れないし、早く元に戻ってほしいなというもどかしい中でライブをやってきました。ただライブは週末だけなので、その分沖縄にいる時間が長く取れたんですよ。普段の生活をしながら曲が作れたから沖縄愛の強いアルバムができたのかなと思います。僕たちにとって特別なアルバムになりましたね。

仲宗根 最終的にはHYらしい、沖縄が大好き! という沖縄に対する愛情が出ている曲も多くて。出来上がってからみんなで、沖縄から幸せや愛を届けるアルバムにしたいと話していましたね。

―沖縄方言をタイトルにするのも初めてですよね。

名嘉 そうですね。沖縄ではホテルとか食堂の名前とか、いろんなところで見かける言葉。“果報は寝て待て”の果報のことを沖縄方言で“カフー”というんですけど。調べたら、良い知らせを運ぶという意味もあるのでいいなと思った。今は世界情勢も不安定だし、悲しい出来事も多かったりする。コロナもまだ収まっていない中でHYの曲を通して幸せを共有したり、届けることができたらという想いでこのタイトルにしました。

―HYは、結成から地元沖縄で生活しながら、沖縄から音楽を発信しています。なぜ島を離れずに、沖縄から音楽を届けているのでしょうか?

新里 沖縄にはすごい魅力があって。僕たちが生まれ育った、世界に誇れるぐらいの美しい海や美しい自然に囲まれた沖縄のことを歌にしていきたいと思っているので。この沖縄の魅力を、地元に暮らしながら表現していきたいっていうのは、HYを始めた時からずっと変わってないですね。

ボーカル・ギター 新里英之さん

名嘉 音楽って音を楽しむものなので、好きな場所で音を作り続けるのがミュージシャンとしていちばん大事な部分かなと思っているんです。沖縄じゃなくて、東京に住んで音楽を作るとなったら、たぶん誰かすぐに逃げ出すはず(笑)。

仲宗根 沖縄にいる意味というか、いたくなる理由は、もちろん家族とか友だちがいることもあるし、沖縄時間じゃないけど、ナンクルナイサーの時間というか、緩い時間もあっての緩い会話が好きだからだと思うんです。それに犬の散歩をしながら細い路地に入ると、今でも子どもの頃の冒険心が蘇ってくる。この道、沖縄っぽいなとかね。そういう時間の使い方とか時の流れ、県外にいたら多分自分の心の中でそういう感情は湧き起こらないと思う。前に3、4カ月レコーディングでみんな一緒に東京に滞在したことがあるけど、どうしても自然が恋しくなるし、人が恋しくなってくる。やっぱり曲を作ることも活動することも沖縄が活力になっているなと思います。

―沖縄で生活するからこそ生まれる曲、音楽がある。それがHYらしさに繋がっているということですね。

仲宗根 もちろんです。県外に行ったら音楽を作ることが多分できないと思う。それはカバが水浴びしたいのに、水がないから、どんどん干からびていって皮が硬くなってくようなもの(笑)。

許田 なにカバって(笑)。

仲宗根 カバって水浴びしている時、生き生きしているでしょう。今まで当たり前にあったものがないっていう環境になると、多分相当苦しくなって曲も作れないような息詰まった状況になると思う。

キーボード・ボーカル 仲宗根泉さん

―これからも沖縄から発信し続けるということですね。

仲宗根 はい。コロナになって、日常に触れる時間も多くなったから、娘と向き合う時間もできたし、散歩やドライブしながら山に行ったり、今までやってなかったダイビングとか、今まで沖縄にいたのにやらなかったこと、見てこなかったものを吸収するようになったので、またそれを曲に還元したいなっていう風に思っていますね。

―HYは、沖縄の子どもたちに何を伝え、何を残していきたいと思っていますか? HYが続けているHeartY活動も次の世代に繋げたいメッセージのように思うのですが?

名嘉 HeartY活動は、いろいろな活動をしているんですけど、例えばビーチクリーンのプロジェクトは、もっともっときれいな沖縄を残していこうっていうことから始めました。子どもたちは生まれた時から沖縄の青い空、綺麗な海は当たり前にあるものだから、何で誰かが捨てたゴミを拾わないといけないのかっていうのもあるはず。前にイズが言っていた「誰かのゴミを拾うっていうポジティブな気持ちで拾っていったら、もっと豊かな気持ちになれる」という話を聞いて、自分も最近はビーチクリーンの時に子どもたちにその話をするようにしています。楽しく教えていけたらいいなと思っていますね。

ドラム 名嘉俊さん

―次の世代に繋げるという意味では、「SKY Fes」もそうだと思うんです。県外のアーティストの音楽に触れる機会になるフェスだと思うから。3月に行われる「SKY Fes 2023」への想いを聞かせてください。

新里 HYは23年目になるんですけど、ここまで続けてきたからこそ自分たちの強い土台ができたんだと思う。作り上げてきた確かなものがあるから、自分たちの憧れのアーティストさんに声かけた時に快諾してくれたと思うんですね。沖縄の子どもたち、そして沖縄のみんなにすてきなアーティストを見て喜んでもらえる窓口を作れたことがすごく嬉しいですね。クオリティーが高いすてきなバンドを見てもらうのが夢だったので。いつか内地からも世界からもたくさんのアーティストが「SKY Fes」に出たいと言ってもらえるようなフェスにしていきたいと思っています。自分たちの生まれ育った沖縄の伝統芸能も、そこに取り入れてやっていきたいというのも僕たちらしいフェスだと思うから。親も子どもも、世代を超えて思いきり楽しめるフェスを目指したい。そして今回新たに、子どもたちが参加・体験できる企画にもチャレンジします。HYにしかできない、温かくてアットホームな、元気になれるフェスにしたいと思っています。

許田 僕も今まで見たことないアーティストの皆さまがいらっしゃるので、そのステージが本当に楽しみですね。世界一クリーンなフェスでやっていこうというテーマもあるので、もちろんゴミのポイ捨てはNGです。本当に参加してくれるアーティストの皆さんも楽しんでもらえるようなフェスになったらいいなと思うのと、あとイズさんの飾り付けも楽しみにしています。自腹でやってくれているので。

仲宗根 会場の装飾はほぼやります。それが自分でも楽しみ。会場に来たら、それが伝わるかなって思います。

ベース 許田信介さん

―HYにとって沖縄とは?

仲宗根 HYにとってというか、私にとって沖縄は、母親のような存在。母体というか、そこから生まれ、そこがないとやっていけないというか、そういう存在ですね。

名嘉 (かぶせて)僕も母ですね。冗談です(笑)。一言で言うのは難しいけど、かけがえのない自分が自分らしくいられる大切な場所ですね。

新里 (さらにかぶせて)母ですかね(笑)。大好きな沖縄の歴史を知ることによって、もっと深く好きになれるのかなと。沖縄には悲しい事実とかもあったので、歴史を勉強しながら、大切にしていきたいって思う島ですね。

許田 自分を作ってくれている場所なので、母ですね、やっぱり(笑)。すごくリフレッシュできる場所でもありますし。都道府県いろんな所に行ったんですけど、沖縄しかこんな長く住んだことないので。なんでしょう、宇宙規模では地球といいますか…。

全員 それってデカすぎるだろ!(笑)

許田 だから、ほんと、なくてはならない場所です。

―最後に、2023年はどんな年にしたいですか?

名嘉 2022年は、どのアーティストも行動が抑制されていた分、ハングリーだと思うんですよ。HYも、めちゃくちゃやりたいことがたくさん出てきているので。いろんな分野、いろんな角度からエネルギッシュに突き進んでいきたいです。2022年以上に、沖縄にラブを届けていきたいし、楽しい2023年になれたらいいなと思っています!

(取材・文/伊藤博伸)

※カフーとは方言で「果報」のこと。HYが昨年発売したアルバムのタイトルになっている


profile

2000年の結成から今年23年目を迎える沖縄を代表するロックバンド。バンド名は、出身地・うるま市東屋慶名の地名(Higashi Yakena)の頭文字から命名。メンバーは新里英之(Vo&Gt)、名嘉 俊(Dr)、許田信介(Ba)、仲宗根泉(Key&Vo)。2003年に2nd AL『Street Story』をリリースすると、インディーズとしては史上初のオリコンチャート初登場&4週連続1位という偉業を達成し、ミリオンセラーに。以後、2022年9月の新作『Kafuu』まで15枚のアルバムをリリースし、累計で600万枚超のセールスを記録している。これまで4度の全国47都道府県を回るライブツアーや全国アリーナツアーを敢行。2007年からは海外ツアーもスタート。カナダ、アメリカの主要8都市、台湾、韓国でも実施。また2011年からは地元・沖縄でHY初の主催イベント『SKY Fes』を開催。2023年3月で4回目を迎える。「More Local,More Global」をテーマに、HYは地元から県外、海外へと音楽を発信している。

HY SKY Fes 2023 & 前夜祭

 会場:沖縄県総合運動公園 多目的広場

【前夜祭】2023年3月17日(金)
 開場16:00(キャンプ利用者のみ12:00)/開演18:00

【DAY1】2023年3月18日(土) 開場10:00/開演12:00
 出演:HY/青山テルマ/ORANGE RANGE/スキマスイッチ/當山みれい/ナオト・インティライミ/FUNKY MONKEY BABY’S/MASA MAGIC

【DAY2】2023年3月19日(日) 開場10:00/開演12:00
 出演:HY/あいみょん/OAU/肝高の阿麻和利/Def Tech/Hilcrhyme/緑黄色社会/MASA MAGIC

(問い合わせ)
 BEA 092-712-4221(平日 12:00~17:00)
 PM AGENCY 098-898-1331(月~木 11:00~14:00)

 

(週刊レキオ2023新年号掲載)