<金口木舌>名作を振り返る


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 仲井真弘多前知事が在京キー局のラジオ番組に出演し、翁長雄志知事の辺野古埋め立て承認取り消しは「とんでもない話」と批判した。ご立腹の様子である

▼自己決定権を論じた翁長知事の国連演説が「しゃくに障った」のは本音であろう。独立論は「酒飲み話」で「先住民論は受け入れられない」とは少々脱線気味ではないか。知事は国連演説で沖縄独立を掲げたわけではない
▼同じ保守政治家でも沖縄近現代史と向き合う姿勢には開きがある。このお二人とも違うのが画家で作家の故山里永吉さん。革新勢力の復帰運動を批判した上、「日本は祖国にあらず」と説いた論客であった
▼「琉球処分」を描いた代表作「首里城明け渡し」では、日本政府の圧力に苦しむ宜湾朝保に「琉球はどこの国のものでもない。琉球は琉球人のものだ」と言わせている。山里さんの信念であろう
▼日米首脳会談で復帰が決まった1969年にも「日本政府は信用できない」と切り捨て、「われわれの祖先は自主独立の気概を持っていた」と主張した。これを「酒飲み話」と片付けることはできない
▼「首里城明け渡し」は現代に通じる沖縄の苦悩を描き、再演を重ねた。60年には、ラジオの「方言ニュース」で親しまれた故仲井真元楷さんも出演していたことを、ご子息の前知事もご存じであろう。読書の秋だ。名作を振り返る機会としたい。