<金口木舌>二者択一ではない


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 東日本大震災で最も多い犠牲者3500人超を出した宮城県石巻市。震災後に3度訪れたが、行くたびに風景が変わっていた。土地のかさ上げが進む一方、爪痕を残した建物が次々と消えていく

▼津波と火災に見舞われた門脇小学校は、焼け焦げた壁や散乱した教室がそのままで、あの日から時間が止まっていた。だがその後、地域の人への配慮で校舎全体がカバーで覆われた
▼児童74人の命が奪われた大川小学校。ぐにゃりと曲がったコンクリートの渡り廊下が津波の威力を見せつけた。今は慰霊碑ができ、多くの人が追悼する場になっている
▼この2校を震災遺構として保存するか否か。市のアンケート結果が先週発表された。石巻市民全体では保存派が6割だったが、校区住民の意向は大川小が解体54%、門脇小では賛否が拮抗した。地元の人ほど見るのがつらいのだろう
▼見たくないという遺族の心情は痛いほどよく分かる。一方で、遺構が訴える力は大きい。生々しい現場の前では誰しも言葉を失う。テレビ映像とは違う被災地の真の姿がそこにはある
▼結論を急がず、時間をかけて議論を重ねてはどうか。原爆ドームも保存決定までに20年かかった。被災建物を大屋根で丸ごと覆って目隠しした上で考えるのも手だ。国民の間で風化が進む中、「物言わぬ語り部」を失うことの是非を考えたい。