<金口木舌>内なる常識を疑う


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 不自由な義足で頑張れば「感動的」、並外れた努力と高性能の義足で世界記録に近づけば「不公平」「ずるい」-。リオ五輪走り幅跳び出場を希望するドイツのマルクス・レーム選手が物議を醸す

▼2年前の独選手権で優勝、昨秋はロンドン五輪金を上回る8メートル40を記録し、リオではパラリンピックでなくオリンピック出場を望む。出ればメダルが近いが、国際陸連は難色を示す
▼レーム選手は体育大学と調査を実施、義足では助走は不利だが踏み切りは有利との結果が出た。国際陸連は「義足が有利に働いていない証明がまだ十分でない」と退けた
▼1988年8月生まれ、運動中の事故で右足膝下を切断した。ロンドンパラリンピックで金メダルを獲得するが、頭角を現す中で「義足の公平性」の議論の壁にぶち当たる
▼「義足は一発逆転を可能にする魔法の道具ではない」「障がい者スポーツを二流とする見方はまだ強い」。レーム選手が望むのは五輪とパラリンピックが完全に分離されない在り方だ
▼「五体不満足」著者の乙武洋匡さんはこう書く。同一参加の結論はすぐには難しいが議論は喜ばしく、可能なら五輪にパラリンピックの種目を含む形を東京五輪あたりで実現できないものかと。有利も不利も立場で変わる。既成概念に斬り込む義足ジャンパーの努力と情熱の行方を見守ろう。