<金口木舌>「まだ間に合う」覚悟で


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 「日本はまだ間に合うと思うんです」。日本人の米海兵隊員としてイラク戦争出兵後、心を閉ざした男性の母は言う(6月29日付6面)

▼かつて家族で米国に移住した長島志津子さん(66)の大学生の次男は米中枢同時テロ後、国を守ろうと海兵隊に入隊した。他国籍でも永住権があれば入隊できた。戦地から戻るとふさぎこみ、話さなくなった
▼志津子さんは日本の知人から「なぜ米軍に入れた」「何人殺した」と責められ、米国人からは「息子を誇るべきだ」と怒鳴られた。「この無念を一生忘れない」。米軍と自衛隊の一体化を加速する安倍政権に異議を唱える
▼イラクで160人を射殺した伝説の狙撃手として映画化されたクリス・カイル元海軍兵は、著書で回想した。悪党は殺されて当然で、米国の戦いは正当だと
▼やがて自らの心的外傷後ストレス障害(PTSD)に気付くが、支援していたPTSDの元海兵隊員に撃ち殺される。アフガニスタンやイラク復員兵の精神疾患は米国の新たな病巣となり、悪夢のような現実を繰り返している
▼息子を戦場に送った後悔の果てに、志津子さんは実名で戦争に反対する「発言する軍人家族の会」の活動に参加する。「おかげで生きることができた」。戦争の被害と加害が両側の人間にもたらす取り返しのつかなさを、「まだ間に合う」覚悟で見据え続けよう。