<金口木舌>敵視から脱して


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 必死に逃げる朝鮮人とみられる男性を、大勢の日本人が取り囲み襲い掛かる。関東大震災(1923年)の数カ月後、体験の中で最も怖かったことを、日本人児童が描いた

▼「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「放火した」などのデマを信じた人々が、大勢の朝鮮人や中国人を殺害した。「敵視」はデマを生み、他者を殺しもする。歴史はそう教える
▼8月上旬、尖閣諸島周辺に中国の漁船や公船が多数押し寄せ、一部の領海侵入に外務省が抗議した。ネットでは、中国公船が「数百隻の漁船を引き連れ来襲した」、漁船に「海上民兵が乗っていた」との情報が流れた
▼中国通ジャーナリストの高野孟(はじめ)氏は、この情報は「デマ」と言う。禁漁期が終わり、日中漁業協定で漁が認められた水域へ一斉に出た中国漁船を、公船は、日本の主張する領海に入らないよう管理に当たった。領海侵入はその結果だと指摘する
▼事態を冷静に見る上で参考になる。日中首脳は5日の会談で、尖閣周辺の偶発的衝突を避ける仕組み作りを急ぐことで合意した。冷静な協議の糸口になってほしい
▼ただ日中双方の軍事強化は、冷静な協議に水を差す。南西諸島へのミサイル配備や最新機能の基地建設は中国には挑発に映りかねない。右手で銃を突き付けたまま、左手で握手を求めても、真の信頼関係は築けない。お互い「敵視」から脱したい。