<金口木舌>「忘勿石」守る責任


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 西表島南風見田(はえみだ)浜にある「忘勿石(わすれないし)之碑」の保存会長として、碑の管理と「忘勿石」の保存に尽くしてきた平田一雄さんが3日、亡くなった。83歳。毎年8月15日に碑の前で慰霊祭を行い「二度と戦争を起こしてはならない」と訴え続けた

▼「忘勿石」は、波照間島の住民の3割がマラリアで命を落とす結果になった軍による西表島への強制疎開の悲劇を象徴する。識名信升・波照間国民学校長が島へ帰る直前に岩に「忘勿石 ハテルマ シキナ」と刻んだ
▼南風見で民宿を営む平田さんは、識名校長の言葉を未来につなごうと碑建立期成会を立ち上げ募金運動に奔走。1992年、立派な碑が完成したが、軟らかい砂岩に刻まれた文字が波風で消えてしまわないかといつも心配していた
▼昨年、竹富町が周辺に遊歩道を整備し、文字を保護しようとアクリルガラスでカバーした。それが今年の台風で破損してしまった。その心労が健康に影響したのか
▼献身的な情熱家だった。「忘勿石」を全国に知ってもらおうと努力した。貴重な切手コレクションを各方面に寄贈するなど、地域貢献にも心を砕いた。面倒見がよく、取材でも随分お世話になった
▼「忘(わす)る勿(なか)れ」という識名校長の思いを体現しながら、刻まれた文字と悲劇の記憶の風化を何よりも恐れた平田さん。その遺志を引き継ぐ責任が託された。